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二十四
濡れた服を着替えてすぐに、バーへ向かった。
少し潮の匂いが髪から取れなかったが、シャワーを浴びている暇はない。
ホテルの地下降りて行くと、小さなBARがあった。
開きもしない窓が壁に何個も飾られていて、サーフィンや海の中の写真ばかり飾られて、落ちついたというよりは騒がしい感じだ。
客も俺ら三人以外居ないらしく、一番奥のみっつのソファのある壁際に案内されると、チーズとクラッカーが出され、ワインにビールにチューハイとバラバラの酒で飲み始めた。
誘ったくせに、誰も何も話さない感じが気まずい。
そもそも、俺はいつも受け身で、好意を向けられるとそれを逃しまいと、簡単に寝てきた気がする。
千秋の時も、すっげえ寂いしい夜に彼女の気持ちを利用してきた。
寒田の気持ちだって、俺は本当にこいつ好きだと思ったのはこいつが先に俺にアピールしたからだし。
KENNにとってはさっさと抱かれて相性まで確かめてみよっかとコイツのストレートな勝負を放棄していた。
感情が面倒だと思う。
気持ちいい事だけして、仕事で頭を真っ白にすればいいと思う。
他人の気持ちより、自分の気持ちを守る方が大切だったんだよ、俺は。
だから、俺は二人の良い所は頭から見ていないし、
こいつらが俺を好きだなんて言っても、深く考えずに逃げてきた。
傷つけられたという代名詞で、逃げて。
どうせ本気じゃね―だろうと俺もいい加減に向きあって。
今、ここに居る二人は、要は俺の闘争の犠牲者なんだろう。
「ワインなんて、ちびちび飲んでたら飲んだ気しねーだろ」
一杯目のビールを飲み干しながら、KENNが嘲笑う。
沈黙を破る最初の言葉からすでにピリピリしている。
「地ビールを味わうこともせずドカドカ飲むのはちょっと下品だと思いますよ」
や、二人の会話は酒を一番不味くしている原因だと思う。
「あのさ、その、こんな事言うのはアレだけどさ」
チューハイの氷をストローで掻き回しながら、さらにピリピリすることを言ってしまうしかない選択に気が重い。
「18年も恋愛に興味無かったからか、なんか自分の気持ちがまだ上手く言えないってか、人を好きになるってどんな感情だっけ、みたいな感じなんだよなー、とか言ったら、青臭くて引く?」
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