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二十六
寒田は眼鏡を外すと、目頭を片手で抑えて首を振る。
「貴方が、俺を追いかけて来たなんて――狂おしいです。勘違いしてしまいそうになる。俺の為ではないのに。あいつの為なのに」
「あいつの為って勝手に決めるなよ!」
俺は、お前と決着を付けたくて来たのに。
「貴方が恋愛オンチになったのは俺のせいです。体温でしか人を求めなくなったのも。だから、KENNとの向き合い方が分からないだけ。――自覚していないだけです」
ベラベラと寒田は訳の分からない事を言いやがる。
俺の話なんて聞かずに、自分の話ばかりだ。
俺が逃げてきて、お前を一番苦しめている存在だってというのに。
「18年間、罪を受け止めて生きてきた時間より、今目の前に居る貴方を抱きしめられない方が苦しい」
「俺はまだお前を苦しめるってことか」
馬鹿げた関係に、うすら笑いしか浮かばなかった。
「少しでも可能性を与えられた方が辛いです」
そのまま、寒田は立ち上がるとカウンターの方へ向かった。
きっとあいつの事だから、支払いを自分宛にしてもらっているんだろう。
分かりやすい奴だ。
俺が好きだと言いながら、KENNから奪うだの、負けないだの、強引さのかけらも見せてくれない奴。
強気で居られないのか。
沖縄へ行く前の、あの言葉は嘘だったのか。
ぐるぐるした吐き気の様なもやもやが、上手く口から出て来なくて俺は、
俺は寒田を追いかけることが出来なかった。
俺が逃げている要因だった。
自分の考えを、思いを伝えるのが下手で、苦手で、
まどろっこしい事を蹴飛ばして身体から入ってきたから、
――寒田を止める方法を俺は知らないんだ。
ただ疲れたと思う。
思って思われて、不安になって裏切られて、裏切って、本音を探して相手を疑って。
この考えや考え方が疲れる。
疲れたと思った。
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