169 / 206
半分。
ウロウロしていた俺に緑の部屋を教えてくれたのは、先ほど俺に蹴られた雷也だった。
俺が海からこのホテルへ入って来るのを待ち構えていたらしい。
「寒田の部屋の鍵」
「お前、少しは使えるじゃん」
カードキーを貰うと、雷也にそう言った後、釘を刺す。
「だけど、お前は椿を泣かせまくりそうだから、まだ認めてやらねーぜ?」
「泣かせたら、二倍は幸せにしてやってるよ」
――二倍、ねえ。
雷也も椿も、傷つくことなんか怖くねぇて顔して、全身でぶつかっていっている。
俺たちとは大違いだ。
傷付きたくなくて嘘を吐いた俺達とは。
ノックもせずにカードキーを差し込んだ部屋には、淡いベットサイドの光しか灯っていなかった。
きちんとソファに畳まれて置かれたシャツやハンガーに掛けられたスーツ。
真面目な緑の性格がそのまま部屋に現れていた。
「寝るの本当に早いな」
ベットに腰をかけた瞬間、腕を引っ張られた。
何で来たのかと、悲痛な顔で俺を見る。
その痛々しい顔が堪らなく愛おしいんだ。
それが俺の隠していた気持ちで、もう隠しようもない真実だ。
傷つけて傷つけられて、憎んで憎まれて。
それを俺は望んでいたんだ。
「18年前の怒りがぶっ飛んじまったよ。緑の愛のお陰かな」
クスクスと笑うと、緑の唇が震えていた。それを必死で唇を噛みしめて隠す。
「俺達、両思いだけど、でもこれ以上は居られないって分かってるだろ?」
俺のその言葉に、緑は小さく息を飲んだ。
上手にさよならを言おうと思う。
それが俺が沖縄まで緑を追いかけてきた理由だ。
本当に――好きだったら、もう解放してやっていいんじゃねーだろうか。
「太陽」
力ない声で俺の名前を呼ぶと、緑は力一杯俺を抱きしめた。
「俺も――俺もです。貴方の本当の幸せを考えたら、俺はもう貴方に会うべきじゃないとずっと答えは出ていました」
ともだちにシェアしよう!