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お、おおおおお? びっくりした。 まじでびっくりした。俺は映画の登場人物にでもなったのかと一瞬びっくりした。 こいつ、おっさんに何を言ってるのか分かってるのか? 興味はないけど、お前は一応、有名なミュージシャンなんじゃないのか? いいのか? ホモだぞ。元からゲイかもしれないけど、そんなのが世間にばれたら――。 「脳内でぐちゃぐちゃになってない? ぐちゃぐちゃなら、俺が乱してやるけど?」 「お前、親父ギャグ寒いから」 「これはまじで、真剣に言うけども」 とっくに緑は出て行ったあとだろう。 もしかしたらもうそのまま仕事へむかったのかもしれない。 もう、俺達は完全に交わらなくて、昨日、払拭した思い出は、歩き出すのにはまだ辛い。 そんなにすぐにエンジンなんて掛らない。 「えっと、でもな、その――ちょっと待てよ?」 「追いかけたら縛ってでもベットから出さないつもりだった。もう、俺でいいんじゃないの? ――駄目?」 駄目? でかくて、偉そうで、傲慢で、暴力的なKENNが、『駄目?』って可愛く聞いているんだけど! すっげ面白い。ウケる。 ウケるけど、めちゃくちゃ愛しい。 「18年も後悔したくないから、じゃあ、言っとくか」 「言え言え」 「27年、一人にしてごめんな?」 野良猫の様にフラフラとしていたKENNに、そう笑いかけた。 「これからずっと一緒にいるか?」 「ああ。離さない」 苦笑したKENNは、それから照れたのかサングラスをかけた。 「謝るやつなんて初めてだよ。太陽」 「ぷ」 ちょっとだけKENNがガキっぽくて可愛かった。 本人もいざ俺が素直になったら戸惑ってやがる。 追いかけない。 酷い奴だと罵られても。 追いかけない。 どんなに緑が好きだったとしても。 ソレが俺の伝わらなくてもいい、至極最強の愛の形。 俺は祈るよ。 こんな性格の悪いおっさんじゃない。 緑を大切にしてくれる、性格の良い人と結ばれることを。 「おい、やっぱ涙が出るんだけど、ちょっと腕ぐらい貸さなねぇの?」 「ふざけるな。早く――俺だけ見ろって」 全然優しくない。 少なくても、緑とは違った、ちょっと歪んだクソ野郎が傍に居る。 だから、俺はもうお前を必死で嫌おうとしたり、もう嘘を吐かれてもきっと傷付かないんだろうと思う。 ヘタクソになった。 泣くのも、傷付くのも、嫌うのも、忘れるのも全部ヘタクソになった。 でもそれは、18年間、仕事と椿を生きがいにしていた時よりは人間らしい。 俺は元からそんな、不器用な奴だったはずだから。

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