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恋人週間

「親父、起きろよ、親父ってば」 沖縄一日目、昼。 三人で汚したベットは――すっかりと綺麗にベットメイキングされていたが、一瞬椿の声で飛び上がってしまったじゃねーか。 流石に、息子に見せて良いものじゃねーからな。 これは。 「あー? KENNは? クソ雷也は?」 「KENNはシャワー。雷也と寒田さんはもう仕事だよ。この部屋からでも海辺の撮影見れるよ」 バルコニーへ椿が誘導してくるが、眠い。 ほとんど眠ってないんだから、起こさないでほしい。ってか寝かせろ。 椿がテイクアウトしてきたサンドイッチとかサンダーアンダギーとか、ところどころ沖縄っぽい食品が入った朝ごはんを並べながら外をを見る。 潮風に前髪を浚われながら、椿が撮影を見る。 もう俺にはその表情の意味が理解できていた。 「あのさ、寒田さんが近いうちに雷也のマネージャーを辞めるらしいんだ」 「……へえ」 知ってるとは言えない。 俺は黙って、椿が煎れた珈琲を啜る。 「俺、雷也さんのマネージャーになりたい」 「ぶっ」 「うわっ汚い!」 椿が、ティッシュ箱を部屋から取ってくると、テーブルに散らばった珈琲を拭いてくれた。 や、拭いてくれたっていうか、驚かしたのはこいつなんだけど。 「お前は、雷也の作詞家だろ。ってか、花屋はまぁ好きにすればいいが、花屋のホームページで販売してた小物とかどうすんだ? お前、作詞家もして小物も作って、マネージャーもやりたいのか? あほか?」 いくら椿が有能でも、全部やろうとするのは無謀だと思う。 「俺、親父みたいな才能が無いことがコンプレックスだったから、何か違うこともしたいって手探りで小物も作ってみたけど、俺、作詞も楽しいしその、――俺」 椿は大きく息を吸い込むと覚悟を決めて、声を絞り出した。 「雷也さんの力になりたい。支えて支えられたい。だから、――だから雷也さんと一緒に住もうと思ってる」 マネージャー。 同棲。 コンプレックス。 椿から次々に出るのは、俺が今初めて知ることばかり。

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