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三
Side緑
無理をし過ぎたけど、太陽は大丈夫だっただろうか。
ふとそんな心配が過る程度で、俺の心は落ちついていた。
この18年、馬鹿みたいに真面目に思いを温めていたけれど、昨日馬鹿をやって、心にこびり付いていた、後悔と言う名の思いが全て剥がれ落ちたと思う。
だけど、あとは太陽の問題だ。
昨日の時点ではまだKENNのことが好きなように見えなかった。
それは多分、俺のせいだ。
KENNを選ぶと言いながら、まだ太陽は恋に臆病になっている。
いや、臆病というより、もう信じていないのかな。
純粋な真っ直ぐな恋を信じていない。
だから、KENNみたいな軽い恋を望んだ。
でもね、太陽。
そのKENNが君に本気になった今、もう君が望む快楽だけの関係は続けられないんだよ。
俺もKENNも、――君の心が欲しかったんだから。
ただ――思う。
KENNが太陽を大切にしてくれるのならば、俺の出番はもうないと思う。
やり直せるとしたら、あの10年前の雷也の花束の事件が最後のチャンスだったと思う。
甘くない、辛いだけの嘘なら要らない。
欲しいのは、甘くて苦い――嘘。
「なあ、寒田」
アロハシャツを肌蹴させながら雷也が近づいてくる。
プロモ作りで、沖縄が似合うと言ったのは椿君の提案だった。
真夏の海の下、――燃え上がる様な恋の歌。
元気いっぱいで可愛い恋の歌になっていて、雷也の価値観やらイメージがどんどん壊されて行く。
本当に椿君の歌詞は、小さい雷也の世界をこじ開けるには最高のパートナーだ。
「おい、名前呼んだのに、無視するなよ」
「疲れていて、面倒な人の声が聞こえにくいみたいです」
にっこり笑って言ってやるが、意外にも雷也から言い返して来なかった。
「なあ、本当に俺の10年前の悪戯のせいじゃねーよな」
「何がですか?」
「お前らが駄目になった徹底的なトドメ。俺のあの日の花束?」
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