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Side KENN 椿ちゃんが雷也の撮影へ行ってしまって太陽が寂そうにしていた。 「一緒に風呂でも入らねーか?」 「は? 嫌だよ。お前、でかいし。ってか、さっきお前シャワー浴びたろ」 「……」 可愛くない所が可愛いけれど、本当に可愛くない。 仕方ないから、半ば強引に強制的に風呂場まで抱えてやった。 抱えている間、俺の背中の傷跡に指を這わす。 その行動に、太陽は深い意味はないだろうけど。 傷に侵入させるのは太陽だけなのだと知っていて欲しい。 「俺が洗ってやるからアンタは大人しく座ってろ」 「どこを洗ってくれるんだ?」 太陽の目が、俺を如何わしいもののように見ている。 いくら俺だって、昨晩(正確には朝方まで)抱きまくったのに風呂でまでサカるかってーの。 それに、こんな折れそうな白く繊細な身体中に俺や寒田の痕を色濃く残してやがるのに。 「此処だよ、洗うのは」 鏡の前で、つまらなそうな顔で俺を睨みつけている太陽。 俺はそんなのをお構いなしに、太陽の髪で遊ぶ。 俺が洗うのは、髪だ。髪。 ベットの上、シーツに散らばる太陽の細くて柔らかい髪を、こんな風に洗ってみたかった。 俺の髪は、堅くて太いから泡立ちが悪いのに、サラサラな太陽の髪は簡単に泡だった。 それで、二本角の様に立たせたり、ソフトクリームみたいに巻いてみたり。 「お前、ガキか」 「ガキだよ。太陽よりも」 だから、甘えさせてくれてもいいんだぜ? そう言ったら、もごもごと小さい声で何か言っていたが、よく聞こえなかった。 素直じゃねーからな。 「で、どう? 一緒に住めば、毎日髪を洗ってやるぞ」 「毎日……。風呂は一人でゆっくり入らせろ」 一緒に住む、はやっぱ良い顔しないな。 別にいいじゃねーかよ。けち。 俺を使って――傷を癒したいならもっと甘えてくればいいのに。 俺は別に、アンタが同情から俺を選んだとしても。 アンタが、アイツを好きなのに自分じゃ幸せにしてやれないからと身を引いたとしても。 その考え方が、アイツを至極至上愛しているという結論に至るとしても。 アンタが俺を選んだ時点で、そんなアンタの気持ちなんてクソ食らえって思ってる。 アンタが――俺の横でゲラゲラわらってりゃ、それでまあいいんじゃねーの? あんま多くは望まないけど、俺の重くて深い愛は押しつけようと思ってるわけだし。 要らなくても――押しつけるつもりだし。 もし、アンタを心から、大切に思っているならば、寒田の元へ帰ってやれと背中を強く押してやれるのに。 俺はアンタを失う事が怖くて、自分の事しか考えてね―んだよ。 だから、俺の言葉はアンタを情熱的に口説く。 アンタを俺から逃がさないために、甘く縛る。 ただ、俺は嘘を吐かない。 だからこそ、アンタも俺から離れなくなればいい。

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