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七
観光地なんざ、 沖縄美ら海水族館とか首里城ぐらいしか俺は知らないわけで。
だけど、そんな人が多い観光地は人酔いしちまうしKENNは芸能人だから騒がれてゆっくり見て回れない。
だから、車で海を見て回るのが一番俺らに合っていると思った。
人混みが苦手な俺と、人ごみに入れない芸能人。
ある意味、お似合いだなって笑ってしまった。
穏やかで海みたいに深くて、波打っては引いては寄せる波のように。
俺の心はまだ誰にもちゃんと本音を言えていないように感じた。
だけど、俺は悪態なら吐けるのに、本音を言おうとしたら声が出なくて。
本当にKENNは、こんな俺で安心感を得られるのだろうか。
俺は緑にもKENNにも愛情は貰っても、返してやれていなくて、でも返し方が分からなくて。
ざわざわと震えていた。
昨日のあの行為で誰が俺の心を信用できようか。
ホテルに戻ると、ホテル専用ビーチでバーベキューセットが借りられることが分かった。
食材セットでだが少ないと思えば追加も持ち込みも可能らしい。
俺とKENNは酒や肉を買い、二人で食べきるのか分からない量の肉を焼いて何が楽しいのか分からないぐらい笑いあった。
「俺、家の近くしか徘徊しないから、旅行って初めてだけど超楽しいな」
「太陽はもっと贅沢を覚えるべきだと思うぞ。そんなに働いていつ金使ってんの?」
今は儲かっているけど、軌道に乗るまではエンジニアとして働いていたと言ったら笑顔が固まっていた。
「俺が色んな場所に連れて行ってやりたくなるな」
その眼は真っ直ぐで、嘘は言っていなかった。
丁度、俺達が食べきれなくてひーひー言い始めたころ、雷也のプロモーションで来ていたスタッフ達が打ち上げの準備に同じ海にやって来ていた。
「面倒だな。部屋戻るか」
KENNの方からそう言ってくれたのが、正直助かった。
スタッフのようにバタバタ準備している椿に、余った肉を押しつけると、ホテルの部屋へ戻った。
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