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十
Side:緑
「では、二日間お邪魔しました」
「はい。椿君も気を付けて下さいね」
雷也がどうしても手が離せなくて、空港まで俺が椿君を送ることになった。
雷也は独占欲も強いが、心配性だ。
それでいて、KENNに強い警戒をしていて椿君から目を離したくないらしい。
とっくにKENNは椿君から太陽へ気持ちを乗り換えて――太陽の心を浚ってしまっているのに。
手を振って去って行く椿君は、きっと聞きたいことはいっぱいあったはずなのに健気に気にしていないふりをしてくれている。
太陽は、それに気付いているのか居ないのか。
いつか、――椿君を安心させてあげて欲しい。
俺が、太陽との繋がりが欲しくて欲しくて――姉さんをそそのかして太陽を酔っぱらわせて――繋ぎとめて出来た子供なのだから。
――ふう。
椿君が乗った飛行機が頭上を走ったのを確認してから、タクシー乗り場へ歩き出す。
待合室には、平日の夕方の便のせいか人はまばらだった。
ロビーには、蹲ってヘ眠っている人の姿さえ――……。
「太陽?」
壁際に体操座りで顔を埋めた太陽の元へ駆けよる。
小さな紙袋だけを隣に置いて、身一つで太陽が蹲っていた。
「太陽? どうしてここに」
「何でお前は俺を見つけてしまうんだよ。馬鹿野郎」
かすれた声。
もしかして泣いている?
「KENNは?」
嫌な予感が胸を過る。
もしかしてKENNは、太陽の気持ちが奪えた時点でもう満足して――手放してしまったのではないか。
「KENNですね。待ってて下さい、俺がアイツを!」
「KENNなら、朝の便でとっくに帰ってるよ。――此処にはもういない」
顔を上げないまま、太陽はそう言うと鼻を啜った。
「太陽は一緒に帰らなかったんですか?」
乾いた言葉が、パラパラと太陽に突き刺さっても聞かずには居られなかった。
「置いて行かれた。お前の所へ行けって。――俺がちゃんと伝えなかったから」
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