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十一

「泣いていますか?」 「――――っ」 「その涙は、何の涙ですか?」 俺がそう尋ねたら、太陽は自分の腕をぎゅっと握りしめた。 「緑も、こんな風に傷付いたのか? 俺に振られて――こんな風に涙が止まらなかったのか」 顔を上げない太陽の足元に、ポタポタと涙が落ちて行く。 嗚呼。太陽は今、――恋と向き合っているのか。 「そうですね。貴方が大切だったから泣きましたよ。それで18年間後悔しかしていません」 太陽の腕を引っ張り立ち上がらせようとすると、すぐに手を離された。 大粒の涙を溜めて――グシャグシャの顔で俺を見上げていた。 「後悔しかしていません。どうしてもっと。もっと、――強く貴方を引きとめなかったのか。強引でもいい。土下座でも良い。貴方を何が何でも離さなければ良かったって」 「みど、り――」 綺麗な涙だった。 恋をして、悩んでいる涙。 いつもの、表情を押し殺した壊れてしまいそうな儚げさはない。 滅茶苦茶に、恋に傷付いてやっと自覚した、顔。 「それか、本当に俺にしてくれますか? 大切にしますよ。少なくても二度とこんな風に泣かせないですけど」 軽く冗談ぽく言ってしまうと、気持ちが楽になる。 「それは、――駄目だ。誰一人救われねーよ」 壁の方へ向いて、腕で両目をごしごしと拭きながら、それでも太陽は一途だった。 「じゃあ、どうしてKENNを追いかけないんですか?」 「――い」 「太陽?」 「これ以上――嫌われるのは怖い」 零れ落ちる様な台詞に、思わず立ちくらみがしてしまう。 そうだ。そうでしたね。 恋をすると、自分に自信が持てなくなるんです。 どうでもいいことでも不安になって、怖くなって――傷付いてしまう。 他人から見たら、ただの痴話げんかにしか見えないのに。 「KENNが貴方を嫌いになることなんてありませんよ」 そんな事で、不安になって取りみだすなんて。 そんな太陽を、俺は今まで見たことなんてありませんでした。 「でも」 「後悔しますよ? 俺みたいに」

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