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甘い恋の、嘘をちょうだい
今も緑に抱きしめられた温もりが肩に残っている。
大切だった。
今はもう、――後悔しかしない恋だった。
これから一緒に居るには、辛すぎる。
俺と緑は、思い出を美化しすぎて、時間が止まったまま。
だけど、俺の時間を動かしてくれたのは、緑ではない。
緑には、素直じゃない俺でも全て受け止めて包んでもらえた。
俺はあいつに甘え過ぎていて、我儘になっていて、だからあいつの嘘が許せなかったんだ。
俺は、今度は受け止めてやれるような大人になれるだろうか。
俺の為に、KENNがついた嘘を、俺は――笑いとばしてアイツにちゃんと言えるんだろうか。
飛行機の中で、小さくなる沖縄を見ながら、不覚にも涙しか出て来なかった。
こんな情けない俺は俺じゃない。
俺はもっと強くて、一人でも生きていけるような奴だったはずだ。
こんな俺を俺は受け入れてくなくて、情けないしみっともないし。
このままいなくなれるならなっている。
この数時間が辛かった。
空港に着いたら、既に緑の事務所の奴が出口に立っていて、スマフォを片手に人物と画面を何度も交互に見ている。
緑に俺の顔写真でも送って貰ってたんだろう。
俺の顔を見て、ワンコのように明るい表情になり走ってきた。
「華野 太陽さんですよね」
「――……ああ」
「行きましょう。車を用意しています。貴方を必ずKENNのいるスタジオに送り届けて下さいって寒田さんに言われたんです」
くるくると表情の変わる男だった。頭が良さそうな、上品そうな若い男。
腕を引っ張られ、車に引っ張られても嫌な気はしない。
前だったら他人に触られてら気もと悪いだけだったのに。
「悪い。迷惑かけた。でも、乗らねえ」
自分でも驚くぐらい憔悴しきっていて、恥ずかしいぐらいだ。
「そんな、困ります!」
「自分の足で行かなきゃならねーんだ。俺はいつまでも緑に甘えてたら、今から会いに行く奴が俺を信用してくれねーんだ」
もしかしたら、もう既に呆れられてしまっていたかもしれないけれど。
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