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その日は、いつもの行為とは違った。 ただ、お互いを求めるような激しいいつもの行為ではない。 一つ一つ、暴いて行くような、丁寧で優しい行為。 初めて、みられて恥ずかしいと思った。 初めて――恥ずかしくて目をぎゅっと閉じた。 その瞼に口づけを落とされて、耳元で、耳が腐っちまうような甘い言葉ばかり吐かれた。 その甘い言葉が、例え嘘だとしても。 甘い嘘だったとしても、 俺は言葉ではなくて、KENN自身を信じるから。 もう迷わない。 お互いを曝け出すような行為に没頭しつつ、満たされていくのが分かった。 俺が、36年間、埋められない心の一部を、KENNの歪な形がピッタリはまった感じ。 心に開いた隙間は、俺もKENNも、隙間さえも歪だったのだから。肌に擦れるシーツが、二人の汗で湿っていて何だか酷く笑えた。 「何泣いてんだよ」 「はあ? 笑ってるし」 「――泣いてるだろ」 額に口づけされると、そのまま抱きかかえられた。 「KENN?」 「こんな濡れたベットじゃ風邪引くだろ。も一個奥にベットあるから、そっちで寝ようぜ」 「……豪華なホテルだよな」 全く使っていない綺麗な部屋のベットに、優しく下ろされると、そのままKENNも隣に入りこんできた。 「豪華で広すぎる部屋よりは、肌や体温が感じられる『家』がいいなって思ってたんだよな、俺」 「KENN」 「なってよ、太陽。俺の家族に」 溜まっていた涙を拭われて、甘えるように胸に縋るKENN。 こんな俺でも、お前は家族を求めるんだな。 「……家族が良いのか? 恋人より?」 「太陽ならどっちも欲しい」 その言い方が、今までのクールなKENNじゃなくて、甘えたガキみたいで思わず笑ってしまった。 笑ったのに。 「また、泣く」 同時に泣いてしまったようだ。 「俺には、家族は椿がいるけど、でもまあ、」 俺もお前が欲しいよ。 そう泣いてるのか笑っているのか分からない情けない顔で言うと、またお互いを抱き締め合った。 KENNの言葉は、例えもう、嘘さえも愛しくなっているんだと思う。 吐息も、体臭も、顔も、身体も、言葉も、声も。 KENNを形成するものは、たとえ傷さえも愛おしかった。 KENNが、肌に張り付いた俺の髪を、何度も指先で梳く。 その行為を、たまに俺がKENNの指を口に含んで邪魔をする。 他愛ない、意味のない行為に、一言、二言会話して、キスをする。 そんな二人だけの時間に、いつしか窓の外は雨が止み――外にはもう宵の明星が顔を出していた。

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