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九
その日は、いつもの行為とは違った。
ただ、お互いを求めるような激しいいつもの行為ではない。
一つ一つ、暴いて行くような、丁寧で優しい行為。
初めて、みられて恥ずかしいと思った。
初めて――恥ずかしくて目をぎゅっと閉じた。
その瞼に口づけを落とされて、耳元で、耳が腐っちまうような甘い言葉ばかり吐かれた。
その甘い言葉が、例え嘘だとしても。
甘い嘘だったとしても、
俺は言葉ではなくて、KENN自身を信じるから。
もう迷わない。
お互いを曝け出すような行為に没頭しつつ、満たされていくのが分かった。
俺が、36年間、埋められない心の一部を、KENNの歪な形がピッタリはまった感じ。
心に開いた隙間は、俺もKENNも、隙間さえも歪だったのだから。肌に擦れるシーツが、二人の汗で湿っていて何だか酷く笑えた。
「何泣いてんだよ」
「はあ? 笑ってるし」
「――泣いてるだろ」
額に口づけされると、そのまま抱きかかえられた。
「KENN?」
「こんな濡れたベットじゃ風邪引くだろ。も一個奥にベットあるから、そっちで寝ようぜ」
「……豪華なホテルだよな」
全く使っていない綺麗な部屋のベットに、優しく下ろされると、そのままKENNも隣に入りこんできた。
「豪華で広すぎる部屋よりは、肌や体温が感じられる『家』がいいなって思ってたんだよな、俺」
「KENN」
「なってよ、太陽。俺の家族に」
溜まっていた涙を拭われて、甘えるように胸に縋るKENN。
こんな俺でも、お前は家族を求めるんだな。
「……家族が良いのか? 恋人より?」
「太陽ならどっちも欲しい」
その言い方が、今までのクールなKENNじゃなくて、甘えたガキみたいで思わず笑ってしまった。
笑ったのに。
「また、泣く」
同時に泣いてしまったようだ。
「俺には、家族は椿がいるけど、でもまあ、」
俺もお前が欲しいよ。
そう泣いてるのか笑っているのか分からない情けない顔で言うと、またお互いを抱き締め合った。
KENNの言葉は、例えもう、嘘さえも愛しくなっているんだと思う。
吐息も、体臭も、顔も、身体も、言葉も、声も。
KENNを形成するものは、たとえ傷さえも愛おしかった。
KENNが、肌に張り付いた俺の髪を、何度も指先で梳く。
その行為を、たまに俺がKENNの指を口に含んで邪魔をする。
他愛ない、意味のない行為に、一言、二言会話して、キスをする。
そんな二人だけの時間に、いつしか窓の外は雨が止み――外にはもう宵の明星が顔を出していた。
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