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二
KENNを押し倒している体勢で、廊下の方を降りくとく、スーツ姿の緑がにこやかに笑っている。
「おまっ 勝手に入ってきてんじゃねーよ!」
「失礼ですね。ちゃんと何度も下から声をかけましたよ。椿君が部屋に作詞ノートを忘れたらしくて、大至急必要ですので、本当にお邪魔しました」
にっこり笑う緑の、完璧な笑顔もなんかちょっと変だ。
「悪いな。――もう三人とか混ざれねーからな」
「そうですか。残念ですね。まあ、太陽は繊細だから付けこむ隙は幾らでもありそうですねよ。君、詰めが甘いし」
二人の間に稲妻が走ったが、どちらも本気の様な冗談なので楽しんでいるような様子だ。
「取って来てやるよ。椿の部屋だな」
「俺もお邪魔します」
緑が俺の後をついて三階まで上がって来る。
「三階まで入るのは、――初めてですね」
そう笑う緑の言葉が、何だか寂しく感じた。
「これですね。わあ、大分、段ボールも移動してスッキリされていますね」
「ああ。本当に雷也と暮らすみたいだからな」
椿の部屋は、壁際にある段ボール数個と、ベットとテレビとテーブルだけだ。
これらは、この部屋に残して行くらしいから、荷物はもうほとんど運び終わっていた。
マネージャーの件は、雷也も緑も、慣れない椿に任せて負担ばかり大きくなるのは、と反対したので、まずは作詞家として本格的に活動するらしい。
椿が俺に通帳を見せてくれたが、――もう心配はいらねーだろうぐらい、作詞だけで儲けていた。
作詞だけであれだけ貯まるのならば、KENNがホテルで生活するのも頷ける。
地道にコツコツ働く俺が馬鹿みたいに感じられる稼ぎなんだろう。
「幸せそうで安心しましたよ、太陽」
椿の作詞ノートを手に持ちパラパラめくりながら、緑が言った。
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