203 / 206
三
「貴方のそんな幸せそうな顔を見られるのなら――俺は身を引いて正解だったと今は心が和らいでいます。俺まで嬉しい」
「何を言ってるんだ。お前はもともとストレートだし、もうすぐ芸能事務所の社長だし、まだ36歳だろ。お前も幸せにならなきゃ――俺がホッとできねーよ」
「ふったのは太陽ですよ」
「――っ。だ、から、心配してんだよ。お互い、遠回りばかりしたから」
こうして、緑と普通に会話できるのは、嬉しい様な切なくなるような胸を抉られる不思議な気持ちになる。
ただ、緑がまた穏やかに笑うようになったのは、俺から解放されたからだと信じている。
「俺は、例えまた誰かを好きになれても、太陽は大切ですし、椿君は俺の大切な甥っこです」
「サンキュ」
「……太陽も。感謝してもしきれません」
しっとりした雰囲気の中、見つめていたら、入り口でノックされた。
「あのさ、もう入っていい?」
「KENN」
怒ったようなオーラだが、これは拗ねてる。
緑に敵意を滲みだしているが、ただ拗ねているだけなのが垣間見えると、笑ってしまいそうになる。
「失礼します。もう喧嘩して太陽を置いて行くとか止めて下さいね」
「うるせえ」
「次あったら、返しませんから」
ふふんと緑が笑うが、その笑顔からは吹っ切れた様子が伺える。
そのまま振り返らずに店から出て行ってしまう。
「見つめ合っちゃって、やーらーしー」
「ガキか。緑とはもう何もねえよ。ただの友達――」
友達に戻れたらいいな、と今はそう思う。
椿の数少ない血の分けた親戚なのだから。
「まあ、俺ももう手放さないからいいけどね?」
ちゅっと軽く啄むようなキスをすると、そのまま肩を抱かれて下まで降りて行く。
ともだちにシェアしよう!