119 / 152

溺愛×未来 五

「す、すいません」 涼さんの父親は、涼さんをもう少し女性的にしたような、儚げな、風に吹かれたら飛んで行ってしまいそうな弱々しい人だった。トラック運転手と聞いていたから、涼さんが筋肉もりもりになったようかと想像していたのに、裏切られた。 「私、オレンジジュース。今、妊娠中なんだよね」 ピンク色のワンピースを着た、黙っていたらフランス人形のように可愛らしい女の子が、淡々とそう言いのけて、俺以外の皆が驚く。 「は。美弥ちゃん、同棲中の彼氏と?」 「あ、先月結婚したの」 「聞いてねえし。売れないお笑い芸人って言ってたじゃん」 「そうなんだけど、引退して会社務めしてるの。だから結婚したの。したら妊娠したの」 悪びれもせずににこにこと笑う彼女に、涼さんと弟くんが目を会わせてため息をついていた。 これは、なかなかの修羅場になりそうな予感がする。 「お前らは少し黙ってろ。お前、はやく俺に珈琲。こいつにも。こいつには水」 多田がテキパキと指示し、涼さんにも座るように促した。 多田と美父が、涼さんと向かい合わせにテーブルに座る。 通路を間に置いて、弟妹が座って監視していた。 「ようやく捕まえたので、勝手だがお前の父親に洗いざらい全て話したら、知らなかったらしくて」 「う、うん。それは聞いたよ」 「で、お前に合わす顔がないというから、会えと連れてきた」 「あ、そうなんだ。久しぶりだね。義母さんの体調を考えてあげてね」

ともだちにシェアしよう!