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溺愛×未来 七

「父さんも、朝登くんのご飯食べて行ってよ。俺は、もういいからさ」 涼さんの頑として意見を覆さない様子に、兄弟も美父もそれ以上は口を噤んだ。 彼の頑固さを知っているらしい。 俺だって、泣き虫だけど頑固で優しい涼さんのことを知っている。 お金を受け取らないだろうということも。 「涼。話を終わらせるな」 ただ、多田だけは納得いかなさそうにこめかみを痙攣させながら手を組んで、涼さんに言う。 「だから俺は」 「あの女子高生二人に聞いたが、――お前、お菓子作りに興味津々らしいな」 多田の言葉に、涼さんの顔が明らかに真っ赤になる。 「えっと、趣味をさがすというか、自分探しの旅というか」 涼さんは嘘が下手すぎて何を言ってもバレバレなところは可愛いと思う。 が、多田は益々険しい顔をする。 「高卒認定試験は合格したなら、次の目標は職だ。安定した職、就職に有利な技術を身に着けるのは大事だ。この金があれば専門学校に通えるだろ」 「そんな、俺は自信をつけたかっただけで、」 「ごちゃごちゃうるさい。お前の金はお前のものだろう。弟たちに何かしたいなら、お前から渡せ。その時に必要な分だけ、考えてわたせ。お前やそこの二人の姉弟のように自分たちで進路ぐらい決められる。そこの父親が頼りなくてもな」 「た、頼りない」 ガンっと頭を金づちで叩かれたような顔をしている父親に、兄弟たちも冷たい反応だった。関係は薄いのだろうか。 「あの、父さんも、涼にお金は使ってほしい。俺も中卒だからそんなに学歴にこだわっていなくてお前の気持ちが分かってやれなかった。だから、お前はお前の好きなように生きて欲しい」 「……あんたがそれを今言うか」 多田が今にも殴りかかりそうだったが、涼さんがテーブルの通帳を持って慌てて止めた。 「分かった。厚真兄ちゃんにもお金返さないとだし朝登くんにもお世話になってるしその分は頂いて、それから弟たちに渡すことにするから!」 「分かればいい。だが、俺はくれてやったんだ。返して来たら、――今、この場でお前の恋人をばらしてやる」 「ひ、卑怯だ」 俺はホッと胸を撫でおろして、ランチの仕込みに戻れる。 涼さんの良心を突くやり方だが、多田が強制的にも涼さんの一番いい方法で場を進ませてくれそうだったので、もう俺がやきもきしなくていい。 俺が突っ込んで良い話ではないから、黙っていたけど、俺だって多田と同じだ。 「……ごめんね、朝登くん。仕込みの手伝い、ちゃんとするから」 通帳を持って、涼さんが厨房を覗きに来たので、俺は首を振る。 「涼さんのために集まった姉弟と+αの方々に俺がちゃんと接待したいんです。涼さんも久しぶりに会う兄弟でしょ。話してて」 「……うわーん。朝登くん、大好き」

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