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本音×ウソツキ 五

製菓の専門学校で資格とっても、ここで手伝えるレベルになれないだろうしなあ。 「すいません」 ベルが鳴り、お客様が開店時間と同時に入ってくる。 看板にまだランチメニューを描い入口に出していなかったので焦ってしまった。 「あ、はい。朝登くーん」 「悪い。これ、出してくれ」 厨房の方から大きな手とお盆が出てきた。 まるで用意していたかのように出来立てのフレンチトーストとレモンティーがティーポットごと置かれている。 厨房を覗くと、予約の電話を受けている朝登くんが、片手を上げて悪い、と謝っていた。 忙しいなら仕方がない。案内して、そのまま予約していたお客様にフレンチトーストを渡した。 「君が末次涼さんだね」 「……え」 メガネをかけた気難しそうなおじさんが、俺を見る。 上から下まで観察しているような、そんな顔だ。 「私は、藤森学園製菓コースの講師の藤森哲也と申します」 「え、ええ?」 「私でよければ、君の面接を、とね」 「俺、ですか」 「座ってくれるかな」 厨房の方を見たら、手だけひらひらと見える。 予約していたお客さまってこの人だったのか。 「緊張することはないよ。朝登くんは、こんな小さなころから知っている。彼のお願いはこれが始めてだから私は今、とても嬉しいんだよ」 指と指の間を、蟻が通れるぐらいの隙間を開けて彼が笑う。 その朗らかさに、悪い人ではなさそうな感がして俺も目の前に座った。

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