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本音×ウソツキ 七

「いえ。でも噂で聞いたことがありました。本当なんですね」 呑気にそう答えたら、藤森さんは眼鏡を外して、少し曇った不透明な眼鏡を見て寂しげに笑った。 「一時的に、ね。ほら、朝登くんが漫画の編集部で働いていた時期があったじゃないか」 「二年前ぐらいですね」 「そ。その時に、彼が担当している漫画がドラマ化されたのは知っているかい?」 「へえ! 俺、ドラマとか全然見ないから知りませんでした」 そんなこと、言わなかった。 でも朝登くんは女性漫画家と、エッチなシーンの打ち合わせが苦手だとか避けられているとか言っていたから、多分エッチな漫画だったんじゃないかな。 だったら自分からドラマ化なんて言わないだろうなあ……。 「彼のことだから言わないだろうね。でも彼のご両親は忙しくてもドラマは毎週欠かさず見ていたんだよ」 「……え」 レモンティーを見ていた俺は、両手をテーブルに勢い良く叩きつけてしまった。 そのせいで、レモンティーの水面が揺れた。 けれど、言葉が見つからない。 「不器用な人たちだった。朝登くんはご両親に似て無口だったね。料理の腕前だけは一人前なのに不器用で人に馴染めず、小さなレストランを二人でやっていくのがやっとな、不器用で無口な二人だった」 「嘘……」 「言葉では私も聞いていないよ。でも自慢するかのようにドラマの時間になるとテレビがつけられる。仕事中だから手が離せない二人は、耳だけでも聞いていたんじゃないかな」 「……」 テーブルに置いた手が震えている。 彼は両親の話をすると、ひどく辛そうだった。 いきなり交通事故で亡くなったとか、上手くいっていなかったとしか聞いていない。 この真実は、伝えてもいいのだろうか。 不器用な彼は、自分を責めないのかな。 早く伝えてあげたい。 そんな矛盾が体を震わせた。

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