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本音×ウソツキ 十

今日はママ友とでもいうのか。幼稚園児ぐらいのお子様が六人、母親が四人、ずっと奥で居座っていた。そこまで行儀が悪いってわけでもないが、忙しい時間、外で並んで待ってる人が居てもお構いなしで二時間は居座った。 そのせいだろうか。子どもの世話が苦手とか? 「高崎くん」 「ああ、先生」 元担当の漫画家が来たときは、泣きそうになっていた。 藤森さんは信用していたが――彼に何か言ったんじゃねえだろうか。 何を言われたのか、変に胸が騒ぎ出した。 聞きたい。聞きたいのに、聞いたら泣き出しそうで怖い。 俺は涼さんの泣き顔が、少しトラウマになっている。 「やっほー。涼さんきたよ」 「今日の賄い、おいしそう」 女子高生二人が来たら、少しだけ盛り上がって会話していたが、それだけだった。 「涼さん、今日のご飯、何か駄目でした?」 「え、いや、賄い、美味しかったよ! 選べなかったからってスープをハーフにして両方くれたし、ありがとう」 「……そうですか」 じゃあなんでもっと美味しそうに食べてくれないのだろうか。 いつもなら、目を輝かせて食べてくれていたのに。 「じゃあ、今日はもう帰るね」 「え、美穂ちゃん?」 「今月はジュースぐらいだわ。だって早く帰らないと再放送のドラマが始まっちゃうんだもん」 「やっぱ録画より、時間通りに見たいよね」 「……そっか。うん。そうだよね」 寂し気に笑った涼さんが、レジを打つ。 ジュースの代金を、ポチ……ポチ……とゆっくりと押していく。 その遅さに、飴の入った瓶の中から招き猫が睨むほどだ。 「また来てね」 手を振る涼さん。二人が見えなくなったぐらいで、俺はその手を掴んだ。 「――涼さん」

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