144 / 152
溺愛SILLY
Side:涼
厨房に無言で入っていった彼を追いかける。
背中に話しかけるなって書いてる。
「……怒ってる?」
いつもの朝登くんじゃなくて、少し怖い。
何がいけなかったんだろうか。
俺が馬鹿だから、何か怒らせることを言ってしまったのだろうか。
「怒ってない」
短く吐き捨てるように言われて、悲しくなった。
そこまで冷たく言わなくてもいいのに、やっぱり怒ってるじゃないか。
服を掴んで縋りながらも、泣きそうになって下を向く。なのに。
「……本当に怒っていない。二度とあんな真似しない」
悲痛な感情が言葉に混ざる。不器用な彼らしい、短い言葉の中から感じる愛情。
「本当に怒ってないなら、キス、してよ」
背の高い彼の顔に近づくために背伸びする。じわりと広がった熱が、彼の耳を真っ赤に染める。
俺の耳に髪をかけたあと、躊躇いながらも下りてくる唇は額に。
不器用で照れ屋な彼らしい。俺はそんな君だから好きになれた。
唇に優しく触れた後、首に何度もキスしてくれた。
「ふふ。くすぐったい。くすぐったいってば」
「――俺は涼さんが好きです。涼さんさえいればいい。だからあんたが不安な顔をすると、周りが傷つけたんじゃねえかって不安になる」
ぎゅっと力強く抱きしめられて、背骨が折れるかと思った。
けど熱い。
彼の熱い気持ちと、早くなる心臓が俺のことを好きだと言っていた。
「君のご両親が、カウンターにテレビを置いていた理由を聞いたんだ」
「……あんたが俺の親のことで胸を痛める必要はねえ」
「違うよ。違うんだ。ちゃんと聞いて。でもきっとディナーの仕込みの手がつかなくなるだろうから、良い子で待ってて」
お願い、と唇にキスした。
キス、した。俺は君がどんな表情をしても受け止めるから。
ともだちにシェアしよう!