145 / 152

溺愛SILLY 二

印刷会社で働いていた時の、たった一度の恩。 俺にとっては、取るに足らない、はっきり言えば朝登くんだから助けたわけではない。 頑張っている人がこちらのミスで失敗するのが耐えられなかっただけ。 なのに親切にしてくれたよね。 はっきり言えば俺の家族なんて面倒くさいだろうし、厚真にいちゃんだって兄貴面して朝登くんに意地悪だろ。 しかも泣き虫だ。俺が泣き虫なせいで、彼が謝っていたのにお金でセックスを求められたとき泣いて傷つけてしまった。 彼がセックスの最中、俺が泣いていないか確認するあの顔。 覗き込むあの顔は、実は少しだけ苦手だった。 俺はもう大丈夫だよ。怒ってないよ。傷ついてないよ。 なのに彼は優しいから、あれがトラウマになってるんじゃないかな。 「よし。閉店! 涼さん!」 「うあはい!」 つい考え事をしていたから、変な返事をしてしまった。 が、彼はエプロンを脱ぎ捨てると俺の手を引いて三階へ一目散に駆け上がっていく。 なので俺は、ゆっくり告げた。 君の漫画のドラマ化したときだけ、お店にテレビが設置されてたんだよって。 朝登くんは目を見開いたあと、恐る恐る三階の部屋を開けた。 カーテンが閉まっていて薄暗く、うっすらと埃臭い部屋。 ふらふらと入っていき、真っ暗なせいで何かに躓いた。 俺が電気を付けたら、朝登くんは段ボールと一緒に倒れていた。 「大丈夫?」 「あ、ああ。窓開けようと思って下を見ていなかった」 頭を掻きながら座って段ボールの中身を拾っていく。 まだ信じられないと、目を見開いている彼の横で俺も段ボールの中身を集めた。

ともだちにシェアしよう!