146 / 152

溺愛SILLY 三

「これ、君の学ランだね。へえ、制服、学ランだったんだ」 「まあ。捨てるものは向こうの段ボールに」 「捨てないよ!」 慌てて背中に隠した。なんて恐ろしいことを言うんだ。 俺の制服は、今中学の弟が着るんだ。残してもらってる学ランを捨てるなんて可哀想だ。 「なんか、ちょこちょこ君のものがあるよね。弓道部だったんだね。優勝したトロフィーとか、賞状とか丁寧に取ってる」 「ポイポイ捨てたから、拾って残してくれてた……のかな。俺も分からねえ」 動揺した震えた声でそういうと、次々に段ボールを開けていく。 朝登くんのご両親は、朝登くんみたいに自分のものが少ない。 ほとんどが、礼服とかレシピ本とか私服はダンスの中に仕舞っているもののみ。 娯楽や趣味のものが何もないから、仕事浸けの日々だったのかな。 そんな彼らの遺品の中に、朝登くんの写真や学生時代の品物が出てくるのは、感慨深いものがあった。 「どっかに小さな頃の朝登くんあるかも」 「ちょ、手伝いじゃなくて邪魔してんじゃないすか」 慌てた朝登くんが俺を後ろから羽交い絞めする。 バタバタ暴れると、二人で一緒に後ろへ倒れこんでしまった。 「うっそ。なんで慌ててるの。照れてる?」 「よーし。舌を入れてキスするからこっち向いて」 「きゃー」 身を捩って逃げるけど、朝登くんの顔がキスしたいって書いてあったので本気で身の危険を感じる。 流石にご両親の遺品の中でセックスは嫌だ。 暴れていたら、再び段ボールを倒してしまった。 「あーもう。涼さん、じっとしててくださいよ」 「だってえ」 クスクス笑いつつ、朝登くんの背中にしがみつく。 が、段ボールの中身を前に、突然朝登くんは手を止めてしまった。 「……朝登くん?」 「……っ」 声にならない声。いや、喉を空気が通る声だろうか。 ヒュッヒュッと聞こえると、尻もちをつく。 まるで心霊現象を前に恐怖している映画の主人公みたい。 その異変に、彼が拾うとしていたものを肩から覗く。 拾おうとしたのは、数冊のクリアファイルだった。 「あ、これ、――朝登くんの担当していた漫画?」

ともだちにシェアしよう!