6 / 152

距離感 Side:涼

 唇に触れてきた彼の指先に驚いた。彼は全く表情も変えなかったから、意図があったわけではないと思うけど。 炒飯はエビが入っていてプリっプリで美味しいし、スープも中華スープに野菜がたっぷり入ってる。サラダだって、こんなに新鮮な野菜を食べたのいつぶりだろうか。  足元に置いた、激安店の外国産のお肉や野菜とは比べ物にならないぐらい美味しかった。 「……さて」 上に勝手に上がるわけにはいかないし、食べたものぐらい洗おうかな。 キッチンに入ると、磨かれた調理器具や埃一つ落ちていない床に彼の性格を伺える。 俺、意外と適当だし大雑把だから気を付けないと。 『お前は頭が緩いから、人一倍努力しないといけない』 そう従兄に言われていたのを思い出して、落ち込んでしまう。確かに俺は頭が悪いし、出来は兄弟の中で一番悪かった。 だから努力しないと。彼は確か一流出版社で働いていたってことは有名な大学を出ているんだろうし、学力に差があるだろうし。 「……あっ仕送りどうしよう」 再婚してから双子の弟が生まれて、更に家計が火の車って言ってたんだった。 俺も仕送り増やすねって言っていたのに、どうしよう。 やはり一度、従兄に相談するしかないよね。自分で決めても後悔するのが目に見えてる。 「涼さん、上に――って」 「あ、ごめんね。勝手にお皿洗ってる」 急いで降りてきた彼が、キッチンに入ってる俺に目を丸くする。 「……ごめん。入ったらダメだった?」 「いえ。その……似合うっす」 似合う? 首を傾げるとなぜか顔を逸らされた。 俺がキッチンに似合うってどういう意味だろう。 「今日はいいです。部屋、布団なくて。上へ」 ドアの向こうを促された。 靴を脱いでから、階段を上がるらしい。二階が住宅って素敵だ。 「あー、朝登くん大きいから布団潜り込むのは無理っぽいよね。大丈夫。俺のことは」 「……っ」 弟四人に毛布を奪われたことがある身としては、布団無くても寝れるけどな。 「俺は、涼さんと一緒に眠れません」 「分かってるよ。男と寝ても嫌だよね」 「嫌ではないから、寝ないんです」 「……え?」 不意に彼の目を見上げれば、耳が赤くなっているのに気づく。 「あの、こっち。この部屋、好きにつかっていいです。鍵、ないですけど」 「ありがとう。鍵は大丈夫だよ」

ともだちにシェアしよう!