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距離感 side:涼

二階はキッチンとリビング、そして奥にお風呂とトイレと――俺に貸してくれる部屋。 「レストランの上に家があるって素敵だね」 「別に。ここで食事作ったことほぼないのに、ゴキブリが出たりする」 「ひ」  今、黒い物体の名前を出した? そうか、飲食店の上のマンションってそんな苦労があるんだ。 開けて入った部屋は、壁に段ボールが数個置いたままになってる以外は、折り畳みのベットもテレビもある。 「三階に上がるのが面倒な時にここで寝てたりしてたんです」 「三階もあるの!?」 「三階は、寝室と両親の私物が溢れた部屋があるだけです。忙しくて何も片付けてあげられていないんだ」  ふうん。じゃあ三階はあまり触れてはいけないってことか。 俺はちゃんとした部屋が嬉しくて、そそくさと用意してくれていたピンク色のテーブルの前に座る。 勉強もしやすい。 「うち、木曜が定休日で、月曜が12時からの半休なんだ。明日、必要なもの買いに行こう。布団はいるよな、あとは」 「あの、本当に申し訳ないんだけど」 「お金はいらないけど?」 「いや、俺のこの食材迷惑じゃないならもらってほしいんだけど」 レストランにこんな食材押し付けるの申し訳ないんだけど、どうしようかな。 「ああ。冷蔵庫にいれとく。涼さん料理するの?」 「兄弟が多かったから鍋ものとか得意だよ」 「……食べてみたい」 頭を掻きながら、ちょっと照れたような申し開けなさそうなトーンで言われて、笑ってしまいそうになる。 可愛い。 「安い食材でいいなら、もちろん。明日でいいなら」 「お腹減らす」 表情ではよくわからないけど、頑張って言葉にしてくれてるのが分かる。 不器用ながらも、彼なりに俺に気持ちを伝えようとしてくれてるのが俺も嬉しい。 「朝登くん、ありがとう。俺、さっきまで、どうしようって本当に困ってたんだ。だから君に会えて本当に良かった」 「……俺もあんたにもう一回会えてよかった。……その」 「うん」 「……ずっと会いたかった」 ちょっとだけ目元が赤くなったような気がする。もっと確認しようと近づくと、逃げられてしまった。 「朝登くん」 「おやすみ。あとで布団なんとかする」 急いで扉の向こうに逃げられてしまったので、彼が照れる姿を見そこなった。 不器用なりに彼には彼の意思表示があるらしい。それをもっと見てみたかったんだけどな。 これ以上追及して、出て行けと言われたら困るので、俺はテーブルに教科書とノートを開いて、こんな時でも勉強して落ち着けようとシャーペンを握った。

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