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距離感 Side:朝登

不自然にならなかっただろうか。同性からの好意に、涼さんが嫌がったらどうしようか。 というか、この状況で嫌だと彼は拒めないだろうから、少しずつ好意を伝えていかなきゃいけないんだろうし。 ああ。どうしたら涼さんに嫌われずに仲良くなれるだろうか。 明日の仕込みをしながらも思い浮かんでしまうのは、涼さんの姿ばかり。 あんなボストンバック一つと、スーパーの袋を持って夜の街をあてもなくさ迷っていたのだと思うと胸が苦しい。 あの人が不安になったときに、俺の顔が浮かんで欲しい。 それほど俺はあの人に恩を感じている。  俺が配属された部署は、少女コミックのTLで、男女のラブシーンが濃厚な漫画が人気の部署だった。  本当は、文系部門か児童書の編集部に憧れていたのだが、世渡りも上手くない俺はこちらに配属されてしまった。  女性の漫画家の担当は難しく、男女の濃厚なラブシーンの打ち合わせが恥ずかしいからと担当を外されたりもした。  一番困ったことは締め切りを守ってもらえないこと。『もう少しです』と安心した言葉を聞いていたのに、締め切り当日実はできていなかった、とか。  だがたまたま俺が担当した漫画がヒットしてドラマ化が決まったあたりから、同じ編集部の一部の人から嫌がらせをされていた。  俺は気づいていなかったが、本屋に配る用の無料冊子の手配を俺の名前で電話して、変更されていた。 電話で何度も何とかならないか交渉したが無駄で。 社内でクスクスと笑う声に、ああ、こいつらの仕業かと胸糞が悪くなったのだけは覚えている。 急いで印刷会社にお詫びに伺った時、涼さんはいた。 何故か黄色いヘルメットをかぶって、指先が真黒な軍手を脱ぎながら、工場長に何か言っていたようだった。 『だから変だって言ったじゃないですか。彼の声じゃなかったんでしょ? 確認ミスはこっちも同じです』

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