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距離感 Side:涼
『いいか。中卒と大卒では、これだけ収入面の差が大きい』
同じ職種でも、中卒の俺と後から入ってきた大卒の子では、大卒の子の方が多かった。
それを従兄は当然だと言う。
『お前も無理すれば、高校ぐらい出れたんだ。だが、どちらにしろあの成績じゃどこも受からなかっただろうな』
従兄が呆れたように嘆息する。俺は下を向くしかなかった。
何か言えば、俺の教養のなさが出てしまう。
一流大学卒業し、海外を飛び回る一流商社マンの従弟と、高齢の社長がやっている小さな印刷会社で働く俺では、会話さえ成立しないんだ。
でもね、本当は俺。本当は、俺。
「起きてください、涼さん」
申し訳なさそうな小さな声が降ってきて、目を開けた。
ぬくぬくと温かい毛布に包まれた俺を、朝登くんが見下ろしている。
「……え?」
「今日は半休で、午後からって言いましたよね? あれ、言ってなかったっけ」
「……?」
そういえば、足りないモノを買おうとか言っていたかも。
「おはよう……」
「起こしてごめん。疲れてるのかと思ったけど、すげえ怖い顔してたから」
「あ、はは。そっか。怖い夢だったのかも。ってかここ、どこ?」
すごく綺麗。モデルルームみたいに余計なものが何一つ落ちていないし置いていない。
はっきり言えば、ベットだけの部屋だ。
「俺の寝室です。やっぱあそこで寝かせたくなくて」
「一緒に寝たのか」
「い、いえ、俺は隅っこで、しかもすぐ起きて仕込みした!」
そんなに全力で否定しなくてもいいのに。
まあ男と寝て勘違いされたくないのは分かる。
「運んでくれたんだ。ありがとう」
「べつに。ご飯用意しとくから、お風呂どうぞ」
「わーい。ありがとう」
起き上がると、一瞬俺を見て朝登君が顔を引きつらせる。
本当に一瞬だった。その表情はどんな意味なのか、じっと見返すと目を逸らされた。
「……朝登くん?」
「や、タオルっす」
顔を背けると、慌てて一階へ逃げていく。
涎でもついてたのかと脱衣所で自分の顔を見て驚いた。後ろの髪が重力に抵抗して逆立っている。どうしたらこんな寝癖がつくんだ。
これに笑わないでくれた朝登くんに感謝をしないといけないぐらいだった。
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