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距離感 Side:朝登
純粋に嬉しかったからお礼を言っただけだろうに、何故か泣き出しそうになった。
今、仕事を放り出して、懸命に笑おうとする彼を抱きしめて泣いてしまいそうになった。
寂し気にポケットの中の携帯を抑える彼の、優しすぎる彼の気持ちを、もっと知りたいと願う。
「俺、肉まんも作れます」
「あはは、そんな意味で言ったんじゃないよ。でも食べたいかな」
「……涼さん!」
つい大声で名前を呼んでしまったが、けど、俺は無理に笑ってほしくなかった。
「……朝登くん?」
「涼さんは正しいですよ。けど、子どもの本業は勉強です。だから勉強できる環境がないだけで、涼さんは気にしなくていいですから」
「え、うん?」
突然の早口の俺の言葉に、驚いている。俺も、口下手のくせに何を言いたいのか、伝えたい気持ちが半分も伝わらなくて焦る。
代わりに冷蔵庫から、解凍前のケーキを取り出した。ケーキは自分で作るけれど、近くのケーキ屋に注文しているものもある。どうしても調理とケーキ作りを同時にするのは難しいから。
「あ。これって、朝登くんがよく差し入れに持ってきてくれたケーキ屋さんだ。リスのほっぺっていう可愛い名前のケーキ屋さんだ」
「これも」
「わ、これ、紅茶プリン? 葉の良い匂いがする」
「これも」
「アイスケーキ! ぷっ」
どんどんカウンターに並べていくと、彼がお腹を抱えて笑い出した。
「俺、こんなに食べれないし。並べすぎ」
確かに少し並べすぎたけど、どれも涼さんは好きそうだった。
「全部食べていいの?」
「どうぞ」
「じゃあ、おいでよ」
涼さんが、ずっと隅っこで騒いでいた学生たちを呼ぶ。
そんな気遣いも彼らしい。
「写メ撮っていいよ。スイーツに囲まれる俺」
カウンターを背にピースする涼さんに、一斉に携帯のカメラが向けられた、
俺も急いで休憩室から携帯を持ってきて、撮る。
俺もカメラを向けたのを、また楽しそうに笑ってくれた。
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