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愛情の表現 一

Side:涼 鍋の中の野菜をかき混ぜながら、電話をする。 まだ下で片づけをしている朝登くんに聞かれないように自然と声が小さくなる。 『ごめんなさいね。今月も大変で』 慣れてしまったけど、かあさんの『ごめんなさい』は、全く謝ってる感じがしない。 「大丈夫? あのさ、今月の仕送なんだけど……」 『ママー! おなかすいた!』 『にいにとあそびたい!』 「……本当に大変そうだね」 「そうなの。ごめんなさいね。また入金が確認したら電話するわね」  そのままさよならも言えないまま電話は切れる。ここまでいつものパターンなんだけど、今回はちゃんと話を聞いて欲しかったな。 液晶に残る、58秒という短い通話時間の表示。 一言ありがとうだけ言って電話を切られていたから、今回はちょっと長かったかな。 「いい匂いがする」 「わ、朝登くん」 「涼さんが作ってる……」 エプロンを脱ぎながら近づいてきた朝登くんは、俺の周りをうろうろして鍋の中を覗く。 「人参は?」 「あ、癖で。弟たちがニンジン食べないから摩り下ろして入れてるんだ。駄目だった?」 「全く! 早く食べたい」 いそいそと食器を取り出して、ご飯を杓文字いっぱいに盛ると皿に置く。 なんか、ご飯のスカイツリーが見える。あんなに白ご飯いれて、ルーが入るのかな。 「大丈夫。これ、俺だから」 「あはは。問題、どこじゃないよ」 可愛いなあと首を傾げて笑っていたら、隣に並んで包丁とまな板を取り出してきた。 「どうしたの?」 「新鮮なトマトがあったから、トマトのマリネ作ろっかなと。辛いの駄目だろうから鷹の爪はいれないよ」 「美味しそうだね」 鍋にルーを入れながら、隣で朝登くんが手際よくドレッシングを作っているのを見てしまう。男の人の手だ。大きくてごつごつして、トマトが小さく見えちゃう。 「じっと見すぎ」 「いや、なんか並ぶと新婚みたいじゃない?」

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