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愛情の表現 三

突き飛ばすと、簡単に飛んで行ってしまった。 壁に頭を打ち付けた朝登君はずるずる座り込んでしまう。 動かない朝登くんに、俺は両手で口を抑えながら混乱して見下ろしてしまう。 「な、なに? 何? なんで、え、え、なんで?」 「……エプロン姿が可愛いから」 「可愛い? 俺、男……え?」 一瞬、信じられないものが見えた。 膝を立てて座り込んだ朝登くんの、腰巻エプロン。 そのエプロンの中心が押し上げられてる……? 「タッたって、起ったってこと?」 「涼さんが新婚みたいとか、可愛いことを言うから」 「は……」  言葉を発する前に涙が一滴零れた。 「初めてだったのに……」 「え!?」 「は、初めてだったのに、こんな、不意打ちとか」 「あの、涼さん、俺、あの」 俺は後ろを振り返り、壁に下がっている丁度いいぐらいの棍棒を見つけた。 「それは、うどん用のめん棒です。元の位置に戻してください」 「うるさい。ば、ばかやろう!」 振り下ろしためん棒を彼が左に避ける。 それが俺に火を付けた。 「避けるな! 馬鹿!」 「……涼さん」 あたふたした朝登くんが、真っ赤になって涙目の俺を見て、目を閉じる。 「分かりました。一思いにやってください」 抵抗しないと、両手を上げている。 「――っ」 なので思いっきり殴ってやった。 エプロンを押し上げる、その中心を。 高ぶったそこを、攻撃されて痛くないわけない。 思いっきり、そこをめん棒で殴りつけた。 「――っつ!?」 声にならない朝登くんが両手でそこを抑えて、床でごろごろ回りながら痛さを我慢している。 それを俺は他人事のように見ながら、カレーの火を消して与えてもらった部屋に逃げ込んだ。 びっくりした。まさか、キスされるとは思わなかった。 まるで唇だけ火傷したみたいに熱くて違和感があるし、なんで俺にキスなんて。

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