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愛情の表現 四

Side:朝登 まだ鈍い痛みが走るものの、俺は体に鞭を打って彼の部屋のドアをノックした。 「すいません。……泣いてます?」 「泣いてない!」 ドアの向こうから元気な声が返ってきたから少しだけホッとする。 いや、反省してるんだ。めちゃくちゃ反省してる。 でも二階に上がったら、カレー作って俺のエプロン着てる好きな人が『新婚みたい』なんて笑ってたら、理性が飛んでしまわないか。 しかも笑い方、めっちゃくちゃ可愛い人だし。 「あのう、一緒にご飯を食べませんか?」 「……」 返事がない。謝るべきだろうか。謝っても仕方ないけど、でも。 「その……今後もキスしたくなるかもしれないんですが、嫌ですか?」 直球で聞いてみた。 これで気持ち悪いとか、嫌だとか言われたら、友達として傍に居させてもらえないか土下座する。初めてだとは思わなかった。いや、あの場面で初めてだと分かっていても、俺はたぶん止まらなかった。 だから謝っても許してもらえないのは重々承知だ。 だから謝らないと開き直る。 「嫌ですか!」 「開けるなよ!」 返事がなかったし鍵はないので、ドアを開けてみた。 すると、今日俺が買った大きなビーズクッションを抱きしめてテーブルの前で小さくなっている涼さんを見つけた。 耳まで真っ赤になって、テーブルの上はティッシュのゴミが散乱している。 泣いてたんじゃないか。 「初めては、大切にしたかった。でも恋愛なんてする前に一人前の人間になってから、自分に自信を持ってからって思ってたし」 「……俺、謝りません」  申し訳ないけど、好きだし。そう思っていったのに、ティッシュの箱が飛んできた。 「嫌ですか?」 「……分からない」 「――!?」 気持ち悪いとか、嫌だとか、朝登くん最低、とか、あの目が俺を蔑んでいると思っていた。 なのに、近づいて覗き込むと、真っ赤なウサギみたいな目は嫌がってはなかった。 「……朝登くんは人として尊敬してるし、嫌いじゃない」 「本当に?」 自分の頬を抓ってみる。すると真っ赤な目で涼さんが笑った。 「おいで」 そういって、俺の両頬を抓って引っ張った。 痛いけど、この痛さは幸せだ。 「モテる男は、こーやって許してもらうのか。ずるい奴だ」 「いひゃ、いひゃいです」 「イケメンの顔、、もっと伸びろーっと」  涼さんが俺の顔をイケメンだと思ってくれている。 そう思うと、痛みなんて全然感じなくなっていた。 というか、痛くても良い。 「何だ、その顔は。なんで抓ってるのに痛そうにしないんだ」 「あの。ご飯できました」 「俺がほとんど作っただろうーー!」 こいつ、と横腹を突かれて、俺は今幸せを感じている。 知的で物静かだと思っていたけど、大家族の長男だけある。 年下の子どもたちとじゃれるような喧嘩に慣れてるのかも。 「涼さんの美味しいカレーが冷えますよ」 「……じゃあ食べる。食べるけど、反省しろ、いけめん」 「どうしようかな」  こんなに可愛い人を前に、我慢なんてできるかって。  許してもらったということでいいのだろうか。もう怒ってないのかな。  嫌じゃないって、チャンスはあるってことなのかな。  聞きたいのに、一度に聞いたら思い詰めたり、逃げられそうで。 今回は涼さんの広い心に感謝して甘えてみることにする。

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