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愛情の表現 九
「何をいじけてるんだ。こっちはお前からの着信に、出張先で不安になったんだぞ」
大げさにため息を吐くと、歩こうと促される。
駅の中のどっかに入るつもりなのだろうけど、せめて行先を教えて欲しい。
ついていくだけじゃ何処に行くか分からないから不安だ。
でも厚真兄ちゃん、自分で決めてどんどん一人でなんでもしないと気が済まない性格だしなあ。
嫌いじゃないんだけど、根本的に合わないのが辛い。
「それは悪かったって思ってます。今は、知り合いのお店で働いてる。給料も良いし、良くしてもらってるよ」
「工場で働いている時もそう言ってたな。高校卒業認定試験を進めてくれたいい社長だと。じゃあなぜこんな夜逃げみたいに倒産するんだか」
「……っ」
厚真兄ちゃんの後ろを歩いていこうとして、足が止まる。
やっぱり連絡しなければよかった。
「……ごめんなさい。やっぱりお金借りるのいいです」
「涼?」
「兄ちゃんが言うのは、いっつも正論だよ。俺が馬鹿だから心配してくれてるのも分かる。でも、人の気持ちを分かってない。……やっぱ電話しなきゃよかった」
借りる身分で何を言ってるのか、自分でも自分が情けない。
けど、もう我慢できなかった。
「ごめん。全部忘れて。帰る」
「待て。……怒らせたなら悪かった。お前から連絡くれるのは滅多にないから、頼って嬉しかったんだ」
後ろを振り向こうとした俺に、兄ちゃんは焦ったように腕を掴んでくる。
「それに、俺に電話してくるなんて……よっぽどのことだったんだろう。すまん。きつくなって。お前が、ふわふわして、しっかりしていないからつい、きつく言ってしまった」
「……厚真兄ちゃん」
「出張先で土産を買ってきてる。が急ぎ過ぎてキーケースしか持ってこなかった。悪いがホテルの中のレストランでランチでもしながら、……ちょっとでも話さないか」
「……俺もごめんなさい。つい感情的になっちゃって」
「いや、会社が倒産して、家のことも就職先も考えないといけなかったお前を追い込んで申し訳ない」
……厚真兄ちゃんが俺に謝るなんて滅多にないのに珍しい。
いつも高圧的で威圧的で、優しいんだけどこっちが委縮しちゃうような人だったのに。
結婚して子供が生まれたから、ちょっと丸くなったのかな。
「じゃあ、行く。ホテルのレストランとか、ちょっとわくわくする」
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