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口実探し 一
「てか、まじ今日も涼さんいないじゃん」
「やっぱマスターの顔が怖いからじゃない?」
「厳しいこと言ってそう。少しは優しくしてあげろよー」
聞こえている。いや、聞こえるように言っている。
彼が出て行ってもうすぐ一週間。明日の休みの日で一週間。
メールをしようと思ったけど、また謝ってしまう。
謝れば、彼は優しいから無理にでも許そうとしてしまうんじゃないだろうか。
せめて、高卒認定試験が終わるまでそっとしとくべきなのではないか。
それに俺の顔なんて、声なんて、メールなんて二度と会いたくないかもしれない。
「ねー、店長、今日のおすすめケーキ何?」
「桃のレアチーズケーキだ。今日は紅茶ポットで飲み放題」
「やっべ。最近、店長がやけくそ感漂うサービスしてくるー」
「私はこっちの生チョコケーキにする」
マイペースな女子高生二人だけしかいない店内。
ディナーの仕込みをしなくてはいけないのに気が進まない。
今日はロールキャベツか煮込みハンバーグ。そこそこ人が入るのも予想してるんだけど。
はあ。
気づくと重たいため息を吐きだしていた。
気持ちを切り替えることも表情を誤魔化すこともできなかった。
「……お邪魔する」
「いらっしゃいま……せ」
ドアを不機嫌そうな声で押して現れた男に、俺は握ろうとしていた包丁をシンクに落とす。
高級そうなブランドのスーツ。高そうな腕時計で時間を気にしつつ、入ってくる。
その時、ドアの向こうの陽ざしで、銀色のフレームが光った。
……涼さんがあの日、話していた男性だ。
「……お客じゃないですよね」
「ああ、話が早いな」
俺がエプロンで手を拭きながらカウンターから出てくるとその男も無表情を崩さずに俺を見る。
女子高生二人だけが、空気を読んで店の一番端のテーブルに移動していく。
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