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口実探し 八

いや、朝登くんが来たら、引き締まった顔で睨まなきゃ。 まだ俺は怒ってるんだぞって、睨まないといけない。 仁王立ちか、手を組んで――。 『俺は涼さんの人柄を――』 駄目だ。顔がにやける。 俺、朝登くんに怒ってたんじゃなかったっけ。 傷つけられて泣いたんじゃなかったっけ。 いや、もともと朝登くんは自分の感情の伝え方が不器用だったじゃないか。 それで、あの時も必死で謝ってきてたし、本当に悪意があってしたわけじゃなくて、悪意と言うより、厚真兄ちゃんに嫉妬して――。 「ああ、駄目だ。恥ずかしい」 あんなに泣きじゃくって、本当に馬鹿だ。ああ、本当に恥ずかしい。 死んでしまいたい。 「……わーわーっ」 「兄貴が部屋中を転がってんだけど、ワライダケとか拾って食べたんかな」 「いや、お兄ちゃんだって今まで散々苦労してきたんだから頭がおかしくなるもんじゃない? 寝てるだけで何もしない人もいるしね」 「……」 「千恵」 「あの人のご飯、私作りたくもない」 「おい」 ……そうだった。この家は小さくて狭い。 建付けが悪いのか、寒い。どこか歪んで風が入ってきてるのかと思ったけど違った。 ……弟と妹がこの家に帰ってこないわけはここにある。 兄妹は仲良しなんだけど――。 「やっぱ兄ちゃんもご飯作るよ。俺、今、レストランで働いてるんだ」 「え、でも」 「まあ運んだり味見したりだけど」 「座ってろよ!」 弟と妹が文句を言いながらもご飯を作ってくれた。 フライパン二個ぶんのナポリタン。それを八人分に分ける。 離乳食は流石に作らないらしく、入れ替わりで義母が台所に立つ。 心配だったけど、会話はないものの不遜な空気にはならなかった。 小学校から帰ってきた弟たちもお皿を並べたり、お風呂掃除したりして、お手伝いもできていい子たちだ。 けれど、埋まらない距離。食卓に義母は付かず、兄弟だけで和気藹々と食事をしていて妙な違和感だった。

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