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口実探し 十二

高校生組までも急いでいたのにかかわらず、涼さんの返事を待っていた。 涼さんは抱きかかえた赤ちゃんの背中をポンポンしながら、背を向ける。 ああ、やっぱまだ怒ってるのかな。 「ねえ、涼くん。この仕送りの額だけど先月より少な――」 空気を読まずに登場したのは、ふくよかな女性。 顔色が悪くてお腹も少し大きいけど、それについては事前に多田さんが言っていたので驚かなかった。ただそのモラルのなさは許せないけれど。 「子どもの進学は教育は義務です。涼さんはその義務さえも真っ当に受けられなかったので、貴方に仕送りは、もうしません」 「なっ朝登くん? これは俺の問題で――」 「涼さんは、今、その放棄された義務を自分で勝ち取ろうと勉強して努力しています。弟君たちはちゃんと高校に行けているなら、――行かせてもらえなかった涼さんがこれ以上家族の犠牲になるのはおかしい」 「……ぎ、せいじゃ、犠牲じゃないよ」 否定する声が弱々しくなり、小学生の二人が駆け寄ると涼さんは声を出さずに涙を流した。 兄妹にも、涼さんが今まで我慢していたことを伝えたかったので、後悔はしない。 「帝王切開の出産って、二年は妊娠しないで欲しいって医者に注意されるらしいですけど、また妊娠されたんですね」 「……貴方に関係ないことよ」 「関係ないですが、子どもには責任ないのでちゃんと責任を持ってくださいね。涼さん、行こう」 義母の体調が良くない理由が、医者の注意も聞かない妊娠と聞いて腹が立った。 満足に他の子も育てていないのに、ぽんぽん妊娠して。 それについては、いつか不在がちの父親にも責任をとらせてやりたい。 「ここに暫く分の生活費を渡しします。が、これは弟君に任せるので」 「え、俺?」 茶色い封筒を渡すと、その重さに目を見開く。 なので、俺は肩を叩いた。 「多田さんが、君が一番信頼できるって言っていた。あと、困ったことが会ったら俺か多田さんに連絡して。進学は諦めないでいいから」 涼さんから赤ちゃんを奪うと、義母に渡す。お弁当も玄関に置くと、まだ呆然としている涼さんを車に乗せた。

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