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スキンシップ 四
ソファに座ってテレビを見ている後頭部に話しかけた。
けど、テレビを見ているのか『ぷ』と小さな笑い声が聞こえた。
おならでないなら、彼が笑ったんだ。
「何見てるの?」
「わっ」
ソファの後ろから、朝登くんの顎に顔を乗せると、驚かれた。
生首オバケと思われたのかな。
「お風呂でたよ、って声かけたんだよ」
「気づかなかった。これ見てたんです」
「ふうん?」
見ると、お笑い番組のようで、芸人がお題に合わせた一発ギャグを競い合っている。
「お笑い番組好きなんだ。いっがーい」
「う。涼さんは何が好きですか」
「うーん。テレビの主導権が無かったからなあ。でもアニメや子供番組ばっか優先されてたから、そっちはもうお腹いっぱいかなー。あ、俺、ここで勉強していい?」
「え、あの」
一人で部屋でダラダラ勉強してたらついサボっちゃう。
人がいない部屋に慣れていないのもあるかもしれない。
社員寮は、壁が薄かったし、後輩や先輩たちがよく顔を出していたし。
「お笑い見ながら勉強できるんですか?」
「大丈夫。賑やかな中で勉強は慣れてるし」
「でも、髪も濡れてる――」
肩にかけたタオルに手を伸ばし髪を拭こうとしてくれたんだけど、驚いて一歩逃げてしまった。
「ごめ」
「いえ、俺もすいません」
怖くて逃げたんじゃなくて、大きいから驚いただけなんだけど、朝登くんの辛そうな顔を見ると胸が痛む。
「あ、じゃあ後ろから髪の毛拭いてよ」
「……いいんですか?」
「いいよー。適当でいいし」
すると口が歪んだ。どんな感情の表現だ、と思ったけど多分嬉しいのかな。
普段クールだと、急に笑うのは顔の筋肉が固まっていて無理なのかもしれない。
朝登くんに髪を乾かしてもらいながら、一緒にお笑い番組を見る、幸せな時間を過ごしたのだった。
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