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スキンシップ 六
「……触られるのが嫌ってことだよね。気づかなくてご」
「嫌ではなくて! 嫌ではなくて、振り返って俺が起ってたら引くでしょ」
「起つ?」
野菜を切り終わった朝登くんは、俺に背を向けたまま手を洗い、此方を向かずに蟹のように横に歩きながら俺の後ろの冷蔵庫からお肉を取り出す。
「朝登くーん?」
「起ってるってば! いいから。あんたは明日試験だろ。カウンターで勉強か二階で勉強!」
「えー、よくわからないってば」
お肉を切る豪快な音が、まな板に響く。
カレー? シチュー? 気になるけれど、気になるのはそこではなくて、こっちを見て欲しい。
カウンターに座って、朝登くんの顔を見る。
すると不機嫌なオーラを出している。そこまで怒らなくていいのに。
ん? これは不機嫌っていうより照れ隠し?
「……あ、触られてムラムラしたってことか」
「――っ」
手を止めて大きくため息を吐くと、何か唱えだした。
「どうしたの?」
「勉強していない涼さんのために、歴代の内閣総理大臣の名前を言おうかと」
「勉強するってば。でも朝登くんの料理する姿って格好いいじゃん?」
「……なあ」
ノートを取り出しながら、何気なくそう言っただけなのに彼はすごくつらそうな顔をしていた。
「わざとやってんの? 押し倒したことに対する復讐とか、ですか」
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