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スキンシップ 八
Side:朝登
「涼さん、受験カードとか必要書類は持ちました?」
「持ってるってば」
「費用、交通費、お弁当、持ちました?」
「……あのね、俺の方が年上なの。心配し過ぎじゃない?」
そう言いつつ、眼鏡をかけて少し緩いセーターから肩が見えて、慌てて上に揚げている。
勉強中にだけかける眼鏡は反則すぎる。あと、自分の体格より大きいセーターは凶器だ。目のやり場に困るだろ。
駅まで送るって言ったのに、店の準備を優先しろって断られたから、俺に出来ることと言えば心配だけなのに。
「涼―」
「涼ちゃーん」
「あ、花ちゃんと美穂ちゃん」
俺と涼さんの神聖な朝のお別れシーンに、如何にも登校前ッといった様子の二人が入口から手を振っている。
「やっば。萌え袖」
「眼鏡もやばくない? 店長こーふんするんじゃね?」
「あ、いっつも一番上までボタン止めるブラウスで働いてるから、首回り楽にしてみたんだ」
「似合うから大丈夫―」
早く帰れ。邪魔だ。
俺が今朝、シャワーを浴びて身を清めてから、神社に乗り込んで境内を掃いていた巫女さんに無理を言ってお守りをゲットしてきたんだ。
渡す時間が無くなる。
「これ、うちと美穂で、涼ちゃんに」
「え」
「学業のお守りー。昨日買ったんだ」
「大げさだよう。わー……でも嬉しい」
目をウルウルさせて、目を真っ赤にさせてすごく喜んでいる。
頬にお守りを摺り寄せて、可愛すぎる。凶器か。
「ありがとう。大事にするね」
「絶対頑張ってね。で、一緒に進学しちゃう?」
「たのしみー」
二人と楽しそうに会話をしている涼さんを見たら、せっかくの雰囲気を邪魔するわけにもいかず、朝の仕込みに戻ることにした。
二人からもらったなら二つも要らないだろう。
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