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スキンシップ 九

「では行ってきます」 「いってらっしゃーい」 涼さんも俺ではなくて、可愛くて若い女の子二人に見送られた方が嬉しいみたいだし。 そもそも俺は、涼さんにとっては腕力で無理やり酷いことをしようとした悪い奴だし。 触って来たり、スキンシップが多いのは、ただ兄弟が多かったかた無意識だったらしいし。 「……朝登くん、聞いてる?」 「え……あ、まだ居たんすか」 野菜を洗っていて音に気付かなかった。 涼さんの向こう側を見ると、女子高生たちが駅の方へ走って行っている。 時間的に、あいつらもわざわざ下りない駅に来てくれたんだろう。 涼さんのために来てくれた二人に、少し毒を吐きすぎた。 「……ねえ、聞いてる?」 「あ、はい。いってらっしゃい」 全く聞いていなかったとは言えず誤魔化すと、涼さんが小さな紙袋を取り出した。 それは、俺が今朝行ってきた神社の紙袋だった。 「どうしたんすか?」 「二人には内緒だけど、俺もお守りを買って……ました」 語尾が小さくなっていく。たかが残り一教科で大げさだと、自分に言っていたのか。 「その時に、商売繁盛の招き猫があって。全部手作りだから顔が違うって言われて、可愛い顔があったから、その」 「……俺に?」 「俺のお守りのついでだけど」 「それでも嬉しいです」 受け取ってさっそく取り出すと、眉の太い凛々しい顔の招き猫がいた。 可愛いというより、背後に回ったら撃たれそうな暗殺者の顔をしている猫だ。 「可愛いでしょ。怒ったときとか、無口な時の朝登くんにそっくり!」 普段、涼さんには俺はこんな暗殺者みたいな顔に見られていたのか。 それはそれでショックだ。いくら可愛いと言われたって、俺にはこれは可愛いと思えない。作ったやつの顔面に投げ返したいぐらいだ。 「それだけ。今度こそ本当に行ってきます」 「……涼さん」 招き猫は、このレストランを殺人犯から守る暗殺者として窓辺に飾ることにして、俺も正直に渡さないといけない。 ポケットから出した紙袋は、くしゃくしゃで酷いものだったが、涼さんの笑顔もくしゃくしゃで可愛かったのでよしとする。 三つのお守りを持って幸せそうに駅へ走っていく。 俺は、俺にそっくりな顔の猫を探してくれた涼さんに、少し期待してしまうのを払いのけて、ただひたすら、料理の仕込みをするのだった。

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