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第一歩。 二
「あ、おかえ、イテ」
カウンターの横の扉から飛び出そうとして、鍵を外し忘れてぶつかってしまった。
「おかえりなさい、どうでした?」
「うん……あの、制服に着替えてくるね」
俯いてキッチンの奥の休憩室へ駆け込んでいく。
これは、そっとしておいた方がいいのかな。
「店長ウケる。慌てすぎ」
「あー……駄目だったのかな? 超がんばってたのに」
頑張っていた。テレビを見ながらアイスを食べながら、うたた寝しながらも、頑張っていた。採点したときも70点は取れていた。50点が合格ラインだって本人も言っていたけど、テスト範囲が広すぎるとも言っていた気がする。
どうしようか。お疲れ様、とパンケーキを作って準備していたけど渡さないほうがいいのか。
こっちが重い雰囲気を作ったらきっと無理に明るく振舞うだろうし、でも。
「ってね。じゃーん」
制服に着替えた涼さんが、自己採点したであろう問題用紙を持って休憩室から飛び出してきた。
「俺、凄いんだよ。分からなかった問題、勘で選んだら全部合ってた。自己採点78点。自己最高点。ギネスブック載っちゃう?」
「載っちゃうっ」
「浮かれた涼ちゃん可愛いー」
女子高生二人と両手を合わせて喜んでいる涼さんを見て、脱力した。
……いや、良かった。頑張った結果だから当然だ。
「心配した? 実は心配してた?」
「俺は涼さんが頭がいいの知ってるので」
何事もなくキッチンへ向かい、鍋に火をかけた。
そして平常を装いつつディナーの仕込みを始める。
なのに浮かれた涼さんが、カウンターから身を乗り出し、俺の顔を見上げる。
「ちゃんと言葉にするって約束忘れたの。……心配してた?」
意地悪になった涼さんが可愛くて抱き着いて胴上げしたいぐらい、俺も浮かれて喜びたい。が、一応客もいる。
「いえ。全然」
「心配してたよー」
「顔が怖かったもんねー」
「帰れ」
こいつらさえ居なければもっと喜びを伝えられたのに。
仕方なく、いつもより生クリーム大目で、紅茶シフォンケーキと焼きリンゴのハチミツ漬けを乗せて涼さんに渡す。
「嬉しい報告が聞けると思って用意してました。これで信じてもらえますか」
「わー、可愛い。信じる。ありがとう、朝登くん」
両手で大事に受け取ると、食べるのが勿体なーいと写メをとったり横から眺めたりと落ち着かない様子。
……本当にこの人は、俺を簡単に転がせてしまう。
「そういえば招き猫は?」
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