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第一歩。 十二
「涼さん、本当にごめん。俺のことは良いから、行ってきていいから」
何度も朝登くんが謝ってくる。
ケーキバイキングに行こうとしていた半休に、突然のお弁当の依頼が来たから。
お昼までに20食分。
突然にもかかわらず、朝登くんのご両親がお世話になった会社らしくて断れなかったらしい。
手伝おうか、と聞いたけど、一人で大丈夫、休みはちゃんと休んで、しか言わない。
頼ってくれていいのに。
料理の方は自分一人でしたいのか、全く手伝わせてくれないしさ。
「……朝登くんなんて頑固ジジイになってしまえ」
「え? 何か言いました?」
「ううん」
本人の目の前で悪口とは言えずに笑って誤魔化した。
「ねえ、本当に手伝うことないの? お弁当詰めるぐらい俺するし、揚げ物とかなら」
「いえ。これ全部、アレルギー食なんです。一人ひとりアレルギーがややこしくて、一人でしないと混乱しちゃうので、すいません」
「……」
単細胞生物О型の俺には、暗に無理だって言ってるな。
「じゃあ、レジの横の飴買ってくるよ。ついでに、駅前に出来たアイス屋さん見てこよー」
「領収書貰ってきてくださいねー」
「はいはーい」
飴の減りが早いな、と思っていたんだけど華ちゃんと美穂ちゃんかな。
……あのマンションとかアパートの不動屋さんのチラシ、どうして俺に見せないんだろう。
昨日、何気に寝落ちした朝登くんにお布団かけながら新しいチラシを見てしまったんだ。
着々と探しているみたいなのに、どうして俺には言わないんだ。
言えばいいのに。
そうしたら俺だって少しは覚悟を決めるのに。
ちょうど駅に向かう矢先、不動産屋を発見して、張り出しているチラシを眺める。
お風呂とトイレは欲しいけど、古くても別に構わない。
部屋も狭くても、荷物も少ないし、今、部屋にあるものはほぼ朝登くんが用意してくれたものだから、買い直さなきゃだし。
「とうとう引っ越すのか」
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