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第一歩。 十三
「…………厚真兄ちゃん?」
驚いて見上げると、目の下に隈を作った厚真兄ちゃんが眠そうに立っている。
「どうしたの? 出張帰り?」
「夜泣き。家内がインフルで倒れたから、俺が夜通しミルクやったり、オムツ変えたり。だが全然泣き止んでくれない。完徹二日目だ」
「ぷっ。厚真にいちゃんが子育て!」
笑ったらいけないと慌てて両手で口を抑えたけど遅かった。
ふらふらな厚真兄ちゃんは、俺を睨みつける。
「お前笑っているが、自分の子どもなんだからこれぐらいどうってことないんだし、いつか経験するんだからな」
「……俺が?」
「次こそ安定した定職につけ。そしてはやく俺を安心させろ。で、俺の子をフラワーガールにさせろ。そして、高卒認定試験合格祝いに何が欲しいか考えておけよ」
寝ていないからハイなのか、圧はあるものの厚真兄ちゃんらしい優しさが感じられる。
「うーん。俺は厚真兄ちゃんが倒れないか心配だよ。今日は休めないの?」
「……午前中に仕事の指示をしたら、さすがに午後は帰る」
「良かった。厚真兄ちゃんは、確かに俺に厳しい人だけど、自分にも同じぐらい厳しいから心配だよ」
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