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第一歩。 十五
朝登くんは、優しい。自分だって今日は半休が潰れて忙しかったのに、こっちに気を遣わせないようにしてくれて。
本当は、気づいてるよ。君が不器用ながらも必死で俺に優しくしてくれてるの。
その先の思いも、ちゃんと伝わってる。
「おい、店は大丈夫なのか?」
「あ、うん。何かいるものがあったら買ってくるって」
「ふん。俺は店の心配をしてやっている」
ふらふらで今にも意識が飛びそうな人が何を言ってるんだか。
適当に諫めながら、ありがとうってだけメールを送っておいた。
厚真兄ちゃんのマンションは、所謂高級マンションで、兄ちゃんのスーツだけは一階のフロントでクリーニングに出してもらっていたようだ。
「ああ、届いていたか」
数個の段ボールを台車に乗せて運ぼうとしたので奪い取る。見ると、子どものミルクや離乳食、あとは厚真兄ちゃん用の栄養補助食品のゼリーや野菜ジュースとかだ。
「厚真兄ちゃん、料理はしないの?」
「美味しく食べる専門だ」
「……奥さんは? いつか倒れるよ?」
「自分の健康管理ぐらいできる」
ふんっと鼻息荒くあしらわれたが、部屋の中はもっと悲惨だった。
一見綺麗な台所と、綺麗なリビング。
兄ちゃんはソファで寝てるのか、毛布が一枚綺麗に畳んで置いてある。
が、兄ちゃんの書斎という名の部屋は、ごみ袋や洗濯物が溢れかえっていた。
「ゴミぐらい捨てなよ!」
「時間が無かったんだ。あと大声を出すな。二人が起きるだろ」
「もー。俺が掃除しとくから、厚真兄ちゃんはソファで寝てて。出来たら起こすから」
「ああ。まあたまにはお前に甘えてやろう」
最後まで偉そうに言うのが厚真兄ちゃんらしい。
溜まっていた洗濯物も回して、掃除機は起こすかもしれないのでクイックルワイパーを発見して埃だけ拭きとった。
寝室の方からせき込む声が聞こえたので、冷蔵庫を勝手に開けさせてもらってぽかりと、さっき到着したばかりの栄養補助食品のゼリーを持っていく。
「涼くんっ お仕事は?」
冷却シートを貼った、顔の真っ赤なお姉さんが、マスクをしながら赤ちゃんを抱っこしているところだった。
「今日はお休みだったんです。何か食べれますか? 雑炊ぐらいなら作っておきます」
「あ、ありがとう。ごめんなさいね。こんな格好で」
パジャマの姿を恥ずかしそうに言うお姉さんは、化粧もしていないのに綺麗だった。
小さくて、白くて目が大きくて、厚真兄ちゃんが全力で守りたくなりそうな女性だった。
「寧々ちゃんでしたっけ。俺が預かりますね。実家に半年の子がいるので、離乳食もミルクも大丈夫ですよ」
「ありがとう。助かるわ」
お姉さんも、赤ちゃんを預かると倒れるように眠ってしまった。
これは、朝登くんには悪いけど、来てよかった。
赤ちゃんを背中におんぶしながら、まずは腐海を片付けるために書斎に飛び込んだ。
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