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伝える方法が分からない。十一
朝登くんの目が意地悪に染まっていくのが分かる。
固まった俺を見て、口の端を上げて楽しそうに笑っている。
「なあ、――キスしていいのか?」
赤い舌が唇から覗くと、上唇をなぞる。
その仕草が、普段の無表情の朝登くんからは想像できないような、エロさというか、妖艶さがあってやばい。
俺、あの唇にキスされてたんだ。
思わず俯くと、朝登くんから意地悪なオーラが消えた。
「わ、ごめんなさい、意地悪で言ったんじゃなくて、涼さんが可愛いから」
「べつに、怖がってるわけじゃない、し」
「じゃあ顔上げてくださいよ」
無理。顔上げたら、自分でも今、どんな顔してるか分からない。
情けないことに、意地悪な朝登くんにひどく動揺しちゃってるはずだ。
「涼さんってば」
「い、いいから、はやく朝登くんは厨房に戻って」
「……涼さん、なんか様子がおかしいんですけど」
背中に回って、厨房に押し込もうとしてもびくともしなかった。
それどころか、足で踏ん張っている朝登くんがそんなことを言うので、たらりと背中に汗が流れた。
「おかしくない!」
「おかしいです。さっき、あの女子高生たちと何を話してたんですか」
「朝登くんの担当していた漫画はエロいのにR18じゃないって話!」
えいっと肩で押すのに、全然動かない。
これが体格と身長差か。
ベットに運ばれたときも、全然力が敵わなかったもんね。
「……じゃあ、そのポケットの中身はなんですか?」
その言葉に、心臓が止まるかと思った。
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