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伝える方法が分からない。十二
「な、なんでもない」
「わざわざ女子高生がクラウチングスタートで走って買いに行ってたのが見えました」
花ちゃん、なんてやる気満々な走りをみせてくれたんだ。
しまった。さっさとロッカーに隠せばよかったに、二人がお金を受け取ってくれないから。
錆びたドアのように、ギギギと重い音が聴こえてきそうにゆっくり朝登くんが振り返る。
後ろに手を回して、俺のエプロンに手を伸ばすので、一歩下がった。
「怪しい……。言っときますけど、涼さん、嘘つけるような性格じゃないですからね」
「ひいい。何でもないってば。朝登くんのエッチ!」
「エッチなことなんてしたくても、してないでしょ!」
バッと振り返ってムキになって叫ぶ朝登くんと、売り言葉に買い言葉と言わんばかりの反応に戸惑って顔を上げる俺。
お互い、真っ赤なことに気づいて、再び朝登くんは厨房を向き、俺は下を向いた。
……エッチなことなんてしたくても。
今、俺に耳が急に難聴になっていなければそう聞こえた。
「あの、朝登くんは、経験豊富? キスは上手いから初心者じゃないよね。鼻が邪魔らしいし」
「なんですか」
「……き、気になっただけ」
朝登くんは、男の人と経験はあるのだろうか。
このポケットの中身を見て、ああ、便秘なんですねって片付けてくれるぐらいの鈍感さが、A型の彼にあるだろうか。
「そんなの、――涼さんが確かめてくださいよ」
「へ、え!?」
朝登くんが振り返る。まるでスローモーションのように彼の動きがゆっくり捉えられた。
真っすぐに俺を見る目。少し拗ねたようにきゅっと結んだ唇。
キスに邪魔らしい鼻。
そして熱を孕む、全身から俺に向けられるその眼差し。
それが、押さえつけられた日、怖かった。
けど今は――今は。
胸が熱くなる。
「ごめーん。お店の充電器の中に自分の充電器忘れてしまった」
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