91 / 152
伝える方法が分からない。十三
美穂ちゃんが、自分の頭をこつんと叩きながら店に入ってくると、見つめ合った俺たちを見て、親指を立てた。
「明日取りに来るわ!」
「な、なんで、そんな空気読みましたって感じの去り方なの!」
「じゃあねー。あとはメールでね」
「美穂ちゃんっ」
高校生に相談するぐらい、藁にも縋る気持ちで誰かに聞いて欲しかったのに。
今は、違う。
今は、朝登くんと二人っきりにしないでという、俺の心からの懇願だったのに。
「……まあ、ほんと予約の準備しないとあれなんで」
どれだよ。と言いたいけど、今は素直に頷く。
どうしてだろう。
相談する前の方がまだうまく朝登くんと話せていたんじゃないか。
朝登くんを目で追うだけで、動悸が激しくなる。
彼が意地悪なのに、優しい。
不器用なのは言葉だけで、それ以外は完璧なはず。
だから俺も、緊張しちゃうに違いない。
けど、けど――まだ朝登くんは少しは俺のことを好きそうだって感じた。
だから今度は俺が一歩歩みだす番だ。
まだこの気持ちを、どう表現していいのか分からないし、伝え方が分からないけど。
けど、まずはできることから慣れて行こう。
まずは、この紙袋の中身を使ってみなくては――。
ともだちにシェアしよう!