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溺愛×試練 六
大げさに咳をする多田が、露骨に嫌そうな顔をする。
邪魔な奴だ。せっかく涼さんとイチャイチャしていたのに。
「さてスープと前菜ができたので、涼さん運んでください。クッキーはあとで二人で食べましょう」
「そうだね。ほら、厚真兄ちゃんも席に坐って」
涼さんに促され、渋々席に戻ると、奥さんからお子さんを奪い抱っこする。
もう少し、自分をよく見せればいいのに、損な人だ。
俺の方が不器用だけど。
「朝登くんのスープね、本当に美味しいから。あと野菜。このドレッシングも自家製だよ。あとお肉。焼くときにこだわりがあってさ」
「静かに食わせろ」
「えー、聞いてよ。それでね、ここが」
多田が渋々涼さんの会話に付き合いながら、子どもを抱っこしつつ器用に食べていく。
味は不味くはなかったのか、とくに美味しいとも不味いとも言わなかった。
代わりに奥さんがころころ表情を変えて、美味しいおっしゃってくれていた。
「ほら、朝登くん、寧々ちゃんももうこの猫、怖くないってさ」
招き猫を握る赤ちゃんが、俺を見て泣いたのはまた別の話だけれど、――けれど涼さんがいるだけで俺の世界はやはり温かい。
この人が好きなんだと気づかされる。
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