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第55話

【恵果 END】 朝陽さんから、口付けられ私もお返しをするのに、また。 何度も口付けられ、返すと私をジッと見て薄く笑う。 「恵果さん、そろそろ戻りましょうか?」 そう言って、私の手を取りまたあの場所へ戻る方へと進むのが不思議で、朝陽さんに聞いた。 「車では無いのですか?」 そう聞けば、少し考えてから回答を貰ったけれど、なぜか不思議な感じを受けた。 嘘とかではなく、なんだかもっと別な感じを。 けれど口に出しても仕方ないので素直に頷くと、朝陽さんの後を追った。 先程の場所に戻るならばと草履を履くために、階段に座ると朝陽さんが私の目の前で膝を付いた。 「ダメですよ、それくらい自分で出来ますから」 と、返してもそ知らぬ顔で私の足の砂を払い草履を履かせてくれる。 とても恥ずかしいのに嬉しいなんて、不思議な感覚に今日はとてもいろんな感情と出会えた。 テーブルへ戻ると椅子を引かれ、座れと手を翳したので私はそこへと素直に座った。 そして背後から、彼の低く甘い声が耳に届いた。 「少しの間目を…閉じてもらえますか?」 熱い息に、一瞬ビクリと体が跳ねるも気づかれてはなさそうなので素直に瞼を伏せた。 カタカタ、カチリ、朝陽さんが何かをしている音を耳で拾う。 気になって薄目でも開けようかと思ったけど、横に人が座る気配に、それも出来ず黙っていれば手が大きく暖かい手に包まれた。 開けてくださいの言葉通り、私は瞼を持ち上げて朝陽さんが目を瞑ってと言った意味を理解した。 目の前には、ケーキがありロウソクが立ち並ぶ。 そこで、やっと気づいたのだ。 「たん、じょうび...」 それしか思い浮かばなくて、そして今それを思い出した自分にも驚いた。 「おめでとうございます、本当に忘れていたんですね」 そう、笑いながら私におめでとうをくれた朝陽さん。 今までは、こんな風に祝われた事すら殆ど無かった。 嬉しくて、こんなにも心の通じた相手に、言葉を貰えることが幸せなど。 とうの昔に忘れていた私の恋心を擽るこの人が、私をこれからも愛してくれるのだと思う。 「ありがとうございます、朝陽さん...私は、もう前の人とはちゃんと決着を付けてきました、だから...だからっ」 なんて事だ、こんなにも想いは溢れ出るものなんだ...。 この男が、欲しい。 心も身体も全てを私のものに 「私は...朝陽さんが好きです」こんな言葉で縛れるものではなくても、この人は私を求めてくれたのだから。 私は思いを告げて手を両手で握り締めた。 「俺は、いつでも恵果さんの事だけ思っています。愛しています」そう言われて心と体が震えた。 言葉を貰う事がこんなにも嬉しいのか... そう、噛み締めていた時に手に口付けを落とされて、指の付け根に唇を落とされた。 その場所は意図的なのかはわからないけれど、それを考えるだけで涙が込み上げてきた。 朝陽さんが私の肩を抱き寄せて、優しく甘く言葉をくれた。 「いっぱい泣いて、また笑ってください」 この人は私をさらに泣かせてどうしようと言うのか。 心が暖かくなり、耳に聞こえる鼓動は緩やかで安心感さえ貰える。 「ありがとうございます」 たった一言を告げると、一陣の陸風が吹き抜けて行く。 髪を乱雑に攫い夏草の香りを届けてくれた。 そっと、朝陽さんの手を取り同じ様に薬指に噛み跡を残す。 「私の愛は重いですよ」 と、クスリと笑って告げた。

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