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第2話

【恵果No2】 あれから幾日が過ぎ去ったか。 あの冬の凍える寒さを季節が変わった今も忘れられずに心に薄ぼけた墨汁のように滲んで消えてはくれなかった。 「恵果、朝陽君が戻るそうだよ」 父からその名を聞くとは思わず、その言葉を聞いた途端夢の世界の話ではないのかと疑った。 「そ、そうですか」 私はあれから、何も変われてはいない。 朝陽さんを詰り、突き放してなお今更ではないのか... そう考えると気持ちが沈んでいった。 相変わらず、元の彼は奥さんの愚痴を撒き散らしながら私を抱くのだ。 子供がうるさい、奥さんとの性交が子供に邪魔される...そんなのどこの家庭も同じだろう。 うんざりしながらもこの男に抱かれて何年が過ぎたか、考えるのも面倒でまるで人形だなと笑う男にお前がそうさせたのだと言ってやりたいものだ。 そんな中、突然だった。 玄関先で朝陽さんの声がした。 心臓が跳ね、柱の影から朝陽さんを覗き見る。 あぁ、なんと逞しくなったのか。 幼さのあったふっくらした輪郭は今はもう、跡形もなく素敵な男性を見せ付けるように引き締まっていた。 時が経つのは早いなと思った所で朝陽さんの視線が動いた。 私は、あなたの視線に...心動かされてはいけないのだ。 唇を噛み締めてその場を離れ、雲水の居る台所へ行けば、風呂敷に届け物を包んだものが目に入る。 「私が...届けます」 「恵果さん?」 これは、本来雲水と呼ばれる修行僧の仕事だから、私は手を出さないのだが...今日ばかりは何か用事が欲しかったのだ。 「お父上にお客様です、お茶を」 そう、用を言い渡せば雲水は、慌てて茶の用意をして出ていきホッと胸をなで下ろした。 届け先と、中に品書きが入っているかを確認し、もう1度風呂敷で品を包む。 「では、行きますか...」と、呟いて包を持ちあげた時。 「うわっ!!」 するりと、風呂敷の結び目がはずれて中に入っていた壺が落下し大きな音をたてて粉々に散った。 一瞬呆然としたが、その場で腰を落とし欠片を手に取ろうとした時急に私の手が持ち上げられた。 「危ないです!」 その声に、身体が硬直しノロノロと姿を見る為に振り返って驚いた。 「あっ、朝陽...さん」 その名を、久しぶりに呼んで懐かしさで涙が溢れそうになる。 その感情を飲み込んだ瞬間に体が前とは一回り近くがっしりと逞しくなった体に抱き締められた。

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