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第4話
【恵果No3】
そして、朝陽さんは挨拶に来ただけだと帰宅して行き私もまた通常通りの毎日が始まる。
◆
朝靄が掛かった中、日が寺を照らす頃に私は箒を持って外へと出た。
今日は、色々と用があるから朝のお勤めを早目に終わらせようと箒を動かす。
「恵果さん!」
家の前を掃いて居ると、奥から声が響き玄関を見たら雲水が青い顔で慌てて草履を履こうとしていた。
「何がありました?」
「壺です、まだお届けに行ってないと聞いて」
あぁ、心配してくれたのか。
私もこうやって慌てた事が昔は沢山ありました。
「安心なさい、先方には今日届けると伝えておりますから」
そう答えれば、明るい笑顔が向けられた。
壺を届け、謝罪の後に私が寺へと戻る道すがらに明るい髪の小柄な男性が門の少し手前に立っていた。
ここは、狭い街で住人は仕事柄大抵は覚えているが見たことの無い人だったので、通り過ぎる時にひとつ会釈をした。
「あんた、この寺の恵果って人?」
不躾な物言いだとは思ったが名を呼ばれたので足を止めた。
「左様ですが...貴方は?」
「松野雲英(まつの きら)」
名前を聞いても、私の知る松野の家族には見かけたことは無い。
「なぜ私の名を?」
「アンタ男と寝るんだろ?」
それを聞いて、驚いている私を値踏みするかの様に頭から足先までじっくりと見られた。
不快感が増して眉間にシワが寄るのが自分でもわかった。
「いきなり不躾過ぎですよ?」
「元の場所に、朝陽を帰しなよ」
腕を組み私を睨み付ける彼は、朝陽さん関係の人とは理解出来たが帰せとは?と聞きたかったがここまで敵意を出されたら下手に返事ができないと思った。
「朝陽さんのお知り合いですか。」
「恋人」
その予想外の言葉に息を呑んだ。
結婚の予定は、結局聞けなかったが...まさか男性とお付き合いをしていたとは。
そして、帰せとは...朝陽さんが数年を過ごした都会の事だろう。
この人の言葉が信用できるわけもなく、しらを切る。
「私は朝陽さんとはなんの関係もありませんよ?帰せとは、どういう事でしょうか?」
「嘘つき、朝陽はアンタを忘れられなくてこっちに戻ったんだ!オレを置いたまま!アンタのせいでオレは独りになったんだ!」
興奮している口振りを聞いていて怖くなった。
私がまた朝陽さんの運命を変えてしまったのだろうかと...
「私は今回朝陽さんが帰って来た理由も知りませんので、関係ありません」
そう言い逃れて自宅へ戻ると挨拶もしないまま自室に戻り、閉めた襖に凭れるように力を抜くとズルズルと尻が畳に落ちた。
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