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第6話
【恵果No4】
胸にもやもやとしたものを抱えながら、寺の門を潜ると目の前に男が立っていた。
家から門への道を険しい顔で歩く男性。
その背格好からはどう見ても脩慈さんで今日は、朝陽さんとの打ち合わせがあると言うのに、何故この人が居るのか解らず首を傾げた。
前もって今日は忙しいと伝えたにも関わらずに来たのだから。帰って貰うしかないと話を掛けようとしたら、罰の悪そうな顔を向けて無言で去っていった。
嫌な予感がして、慌てて玄関を見ると...やはり。
黒い革靴が、帰りに履きやすいように玄関の出口に向けてつま先を向け綺麗に揃えられていた。
私は急いで部屋へと向かい、ひと息ついた。
平常心と心で呟き深呼吸を1つ入れてから入口を開ける。朝陽さんが私の部屋で胡座をかいて座っていた。
「朝陽...さん、こんにちは」
そう伝えると、真っ直ぐな視線で私を見て立とうと片足を立てたのでそれを制した。
「座ってて下さい…打ち合わせですよね?」
声が少し上擦ったかもしれないが…大丈夫。
動揺は見られてないはずと心に念じた。
「はい、先ほど下見は済ませたので簡単に打ち合わせしたいと思いまして」
その言葉にホッと息をついた。
脩慈さんとは、下見していたなら会ってないかも知れないと、かすかな希望も出来る。
切迫してた気持ちが開放されると喉が乾いたと感た。朝陽さんへと茶を出すのも併せてと急須に手を伸ばす。
「戻ったばかりでお疲れでしょう。俺が淹れますので、どうぞ座って下さい」
なんだか、申し訳ないと思いつつも座布団を引きそこへ腰を下ろした時。
パラパラと落ちる茶葉。
「あっ...しまった」
と、朝陽さんが慌ててる姿に懐かしさが沸き起こり、姿は変わっても変わらないなと思ったら笑いが込み上げてきた。
淹れて貰った茶を飲みながら、仕事の話を切り出してきた。そのまま話を終えるまで私は終始さっき見掛けた脩慈さんの事が気になった。
あの慌てた様子と私の顔を見ても、目を逸らしたのは朝陽さんと会ったのだろうか。
総代の息子であり私と関係を持った時に写された写真は未だあの人の手の中。
まさか朝陽さんまで脅しはしないだろうかと、内心では恐怖しかない。
「恵果さん?」
聞いていますか?の意味合いなのだろうが聞いていなかったので、へにゃりと笑って誤魔化した。
「はい」
ボケっとしていて聞き返されながらも、どうにか話は終わりを告げるかのように持っていた図面を閉じた。
茶を飲み干し、黙々と帰り支度を済ませ玄関へと向かった。
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